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2008年2月24日 (日)

仙台弁護士会 司法試験合格者数に関する決議全文

司法試験合格者数を年間3000人程度とする政策の変更を求める決議

1 政府は,2002(平成14)年3月19日に閣議決定した司法制度改革推進計画に基づき司法試験合格者数の大幅な増加に着手し,2001(平成13)年度に990名であった司法試験合格者数は,2007(平成19)年度には2099名となった。
  そして,2010(平成22)年ころには,上記計画に従い,司法試験合格者数を年間3000人程度にすることが予定されている。
2 上記計画は司法制度改革審議会意見書(2001(平成13)年6月12日)を受けたものであるが,その見通しは「今後,国民生活の様々な場面における法曹需要は,量的に増加するとともに,質的にますます多様化,高度化することが予想される」「国民が必要とする質と量の法曹の確保・向上こそが本質的課題である」というものであった。しかし,そのような法曹需要の増加は,現段階において現実化していない。
  他方,上記計画に基づく司法試験合格者数の増加によって法曹三者のうち弁護士人口のみが急激に増加した。上記意見書において想定されていた法曹需要の量的増大は認められなかった結果として,現実の法曹需要と増加する弁護士人口との間に明らかな不均衡が現れている。
  今後も適正な需要の増加がないままに弁護士人口のみの急激な増加が続くことになれば,かえって法的サービスの質の低下や濫訴を招くなどの弊害が予想される。かくては上記意見書が目指した,市民や企業に身近で質の高い法的サービスを提供するという所期の目的にむしろ逆行する結果をもたらすこととなることが懸念される。
3 このような現実の需要に見合わない弁護士のみの急激な増加による弊害を防止し,我が国の弁護士人口を現実の需要に即した適正なものとするためには,司法試験年間合格者数を削減する方向で直ちに見直す必要がある。
  当会は,このような観点から,司法試験合格者数を年間3000人程度とする政策の変更を政府に求めるものである。
 以上のとおり,決議する。
  
  2008(平成20)年2月23日
                    仙 台 弁 護 士 会
                       会 長  角  山   正

提 案 理 由

1 法曹人口の大幅な増加が計画された経緯
(1)司法制度改革審議会意見
  司法制度改革審議会(以下「司法審」という)が,政府に対して提出した司法制度改革審議会意見書(以下「司法審意見書」)は,「経済・金融の国際化の進展や人権,環境問題等の地球的課題や国際犯罪等への対処,知的財産権,医療過誤,労働関係等の専門的知見を要する法的紛争の増加,『法の支配』を全国あまねく実現する前提となる弁護士人口の地域的偏在の是正(いわゆる『ゼロ・ワン地域』の解消)の必要性,社会経済や国民意識の変化を背景とする『国民の社会生活上の医師』としての法曹の役割の増大など」により,法曹需要が量的に増大するとともに,質的にますます多様化,高度化することが予想されるとし,法曹人口の大幅な増加を図ることが喫緊の課題であるとした。その上で,司法試験合格者数の増加に直ちに着手し,2010(平成22)年には司法試験合格者数を年間3000人とすることを目指すべきであるとした。そして,これによりおおむね2018(平成30)年ころまでには,実働法曹人口が5万人規模(法曹1人当たりの国民の数は約2400人)に達することが見込まれるとしたものであった。
(2)司法制度改革推進計画
  司法審の上記意見を受け,政府は,2002(平成14)年3月19日,司法試験合格者数の増加に着手し,司法試験合格者数を2002(平成14)年に1200人程度に,2004(平成16)年に1500人程度に増加させ,2010(平成22)年ころには司法試験の合格者数を年間3000人程度とすることを目指すとする司法制度改革推進計画を閣議決定した。
  これによって,2001(平成13)年度に990名であった司法試験の年間合格者数は,2002(平成14)年度に1183名,2004(平成16)年度に1483名となり,2007(平成19)年度には2099名(新司法試験合格者1851名,旧司法試験合格者248名)を数えることとなった。このまま上記計画どおり司法試験合格者数が推移すると,2010(平成22)年度には司法試験合格者数が年間3000人程度に達することが見込まれる。
(3)法曹人口の増加に対する日本弁護士連合会の立場
  司法審意見書の政府への提出に先立つ2000(平成12)年11月1日,日本弁護士連合会(以下「日弁連」という)は,臨時総会において,「法曹人口,法曹養成制度並びに審議会への要望に関する決議」を採択した。
  これは,当時司法審において年間3000人程度の新規法曹確保が検討されていたことを踏まえ,我々弁護士が,「『法の支配』を社会の隅々にまでゆきわたらせ,社会のさまざまな分野・地域における法的需要を満たすために,国民が必要とする数を,質を維持しながら確保するよう努める」ことを決議したものであった。それは法曹人口の大幅増加が法曹一元制や市民に身近で利用しやすい司法の実現に必要であり,国や地方自治体,一般企業など社会全般に弁護士が進出することによりもたらされる自由・公正並びに透明性の高い法化社会の進展に寄与するとの認識に基づくものであり,他方法曹人口の増加により法曹の質が低下してはならないという立場から,日弁連として,さらに一層,法曹養成について努力することも確認された。

2 弁護士人口の大幅増加の前提としての法曹需要の予想と現実
(1)司法審意見書で示された認識
   司法審意見書は,法曹需要の増加と多様化・高度化が予想される要因として,「経済・金融の国際化の進展や人権,環境問題等の地球的課題や国際犯罪等への対処,知的財産権,医療過誤,労働関係等の専門的知見を要する法的紛争の増加,『法の支配』を全国あまねく実現する前提となる弁護士人口の地域的偏在の是正(いわゆる『ゼロ・ワン地域の解消』)の必要性,社会経済や国民意識の変化を背景とする『国民の社会生活上の医師』としての法曹の役割の増大など」が挙げられていた。しかし,このような法曹需要増大の抽象的可能性がどの程度の法曹の量的需要を現実に生じさせるかについて見通しがあったものではなかった。
   司法審意見書は法曹1人当たりの国民の数について,日本(約6300人)が,アメリカ(約290人)・イギリス(約710人)・ドイツ(約740人)・フランス(約1640人)と比較して少ないことを指摘する。しかし,それぞれの国によって,裁判官数・検察官数,裁判制度,司法予算,法律扶助制度,法律扶助に投下される国費,法曹資格取得後実際に法曹として実働する者の数,国民の法意識,隣接法律専門職種の有無・人数などは様々であって,単に人口比から我が国で必要とされる適正な法曹人口が直ちに導かれるわけではない。
   ことに我が国には,司法書士・行政書士・税理士・弁理士等の隣接法律関係専門職(諸外国でも独立の職種とされる公認会計士は除く)が存在するという特殊性がある。その数は2001(平成13)年当時で12万人以上,現在は13万人以上である。これら隣接法律関係専門職を加えて比較すると,2001(平成13)年当時ですら1人当たりの国民の数は907名,2005(平成17)年は810名(日弁連の弁護士白書による)であって諸外国と比較して,ことさら不足しているとまではいえない。
   司法審は,将来の法曹の数については「社会の要請に基づいて市場原理によって決定されるものであり,司法試験合格者を年間3000人とすることは目標であって上限を意味するものではない」としている。しかし,年間合格者が3000人のまま推移すると,将来の法曹人口は,法曹人口5万人(日弁連の推計では2018(平成30)年に到達)に達した後もさらに増加し続け,日弁連の推計によれば新規法曹資格取得者と法曹でなくなる者が均衡する2046(平成68)年には13万人以上に達すると予測されている。
(2)近年の弁護士増加の状況
   司法制度改革推進計画に基づき,2001(平成13)年度は990名であった司法試験の年間合格者数は,2007(平成19)年度には2099名を数えることとなり,更に2010(平成22)年ころにはこれが3000名程度に達することが予定されている。
   ところが,司法試験の年間合格者数を3000人程度に至らない過渡期にすぎない現時点で既に,大都市を中心に弁護士の飽和状態が生じており,2006(平成18)年度以降,司法修習を修了しても法律事務所への就職が困難な状況が生まれてきている。日弁連も,当会も,新規登録弁護士の職場確保のための努力を重ねてきたが,従前のような就職ができず,無給で事務所を使用させてもらう「ノキ弁」や,やむを得ず自宅を事務所登録する「タク弁」が生じているといわれている。一般的には新規求人数と当該業種の需要の見込みとは相関するといわれているのであるから,司法審意見書の予想した法曹需要と現実の法曹需要が著しく乖離していることがここに示されているというべきであろう。
(3)想定されていた法曹需要と現実の需要との不均衡
 ア 司法統計から見た法曹需要
   司法統計によれば,司法審意見書が政府に提出された2001(平成13)年の時点では,全裁判所の民事・行政事件新受総数は,増加傾向にあり,1990(平成2)年に171万5193件であったのが,2001(平成13)年には309万8011件に増加していた。ところが,2003(平成15)年に352万0500件に達したのをピークに減少に転じ,2006(平成18)年には262万1139件にまで減少した。全裁判所の刑事事件等新受総数も2001(平成13)年に164万9946件であったのが,2006(平成18)年には149万5046件に減少している。弁護士の主要な取扱業務である地方裁判所の民事通常訴訟事件についてみると,2000(平成12)年に18万4000件に達した後,順次減少して2005(平成17)年には15万4000件に減少している。
   司法統計からは,裁判における法曹需要が,司法審意見が出された後減少していることがわかる。2006(平成18)年の貸金業法改正によって,いわゆるグレーゾーン金利が廃止されたことにより,今後クレサラ事件が減少する可能性が高いことを考えると,民事・行政事件新受総数は更に減少するものと予測される。
 イ 裁判官及び検察官数の推移から見た法曹需要
   司法審意見書では裁判官及び検察官の大幅増員の必要が明記され,これを受けた司法制度改革推進計画においても,司法制度改革推進本部の設置期間中の必要な増員と司法審意見を踏まえた所要の措置を講ずることとされていた。にもかかわらず,裁判官数については,2000(平成12)年4月に3019名であったのが2006(平成18)年4月に3341名に漸増した程度(1年当たり37名の増加),検察官数は2000(平成12)年3月31日時点で2231名であったのが2006(平成18)年3月31日に2479名に漸増した程度(1年当たり42名弱の増加)である。
   司法審意見書によれば,最高裁判所は,「今後,事件数がおおむね現状どおりで推移するとしても,向後10年程度の期間に500名程度の裁判官の増員が必要となり,更に事件数が増加すれば,それに対応する増員(例えば,民事訴訟事件数が1.3倍になった場合には,約300名ない400名)が必要である」との試算を示していたし,法務省も司法審が示した制度改革等の実現のためには1000名程度の検事の増員が必要になるとの意見を示していた。にもかかわらず,それらが実現していないのは,裁判官・検察官の大幅増員が必要とされるだけの法的需要が現実に生じなかったためと考えられる。
 ウ 企業・官公庁・地方自治体における法曹需要
   前述した日弁連の臨時総会決議は,弁護士人口の増加により,国や地方自治体,民間般企業など社会全般に弁護士が進出することを想定していた。
   ところで,日弁連業務推進センターは2006(平成18)年10月から11月にかけて弁護士の需要についてのアンケート調査を実施し,5252の企業,46の省庁,849の自治体にアンケートを送付し,うち1446の企業,32の省庁,655の自治体から回答を得た。しかし,アンケートの分析結果によれば,企業・官公庁・地方自治体における弁護士の需要はいずれも極めて少ないことが明らかとなった。
   このような結果からすれば,現時点において,企業・官公庁・地方自治体における弁護士の需要は少なく,今後,弁護士会として,この分野における業務対策を強力に講ずることは当然としても,それが直ちに大幅な需要増をもたらすと期待するわけにはいかない。
  エ 予想された法曹需要と現実の需要との不均衡
   司法制度改革推進計画に基づき司法試験合格者数が増加したものの,裁判官及び検察官は微増にとどまり,弁護士人口のみが急激に増加する中で,想定されていた法曹需要と現実の需要との間に大きな開きがあることが明らかとなった。

3 弁護士人口の急激な増加がもたらす弊害
(1)弁護士の能力面での質の低下の虞
 ア 司法修習
   従前司法修習は2年間であったが,修習期間は1年間に短縮された。そして現在では,かつて法律実務家としての基礎を学ぶ場であった司法研修所での前期修習すら行われないままにいきなり実務修習が開始され,その実務修習も弁護修習について言えば僅かに2ヶ月であって短すぎるとの感は否めない。
   また増員によるものか,司法修習期間の短縮によるものであるかその原因は定かでないが,国家試験である司法修習終了後のいわゆる2回試験においては,2006(平成18)年,2007(平成19)年と連続して未だかつてない大量の合格留保者ないし不合格者が生じており,司法試験合格者の能力面での質の低下が懸念される事態となっている。
 イ 登録後のオン・ザ・ジョブ・トレーニングの不足
   そもそも弁護士としてのスキル習得は,決して司法試験合格前の勉強や司法修習だけで十分になしうるものではなく,弁護士となった後の勤務先の弁護士などとの協働によるオン・ザ・ジョブ・トレーニングによるところが大きい。これまでも修習終了後直ちに独立開業する弁護士がなかったわけではないが,多くの弁護士は法律事務所で勤務弁護士として勤務することによってオン・ザ・ジョブ・トレーニングを積んで弁護士としてのスキルを習得してきたのである。直ちに独立開業した場合であっても,弁護士会の先輩弁護士との共同受任などを通じて事実上のオン・ザ・ジョブ・トレーニングを積むことができた。オン・ザ・ジョブ・トレーニングで得られるスキルが,研修などで代替しうるものでない。
   ところが,弁護士の急激な増加による就職難がこれ以上進めば,これまでのようなオン・ザ・ジョブ・トレーニングを受けられない弁護士が増加していくこととなり,十分なスキルを習得していない弁護士が法的サービスを提供するという事態が生じることになる。
 ウ 市場原理と法的サービスの質の関係
   ところでこれまで,弁護士人口の増加により,仮に十分なスキルを習得していない弁護士が増えたとしても競争の中で自然に淘汰され,法的サービスの質が向上するとの市場原理論が語られてきた。
      たしかに法律事務にあっても適度な競争が法的サービスの質の向上に寄与する面はあろう。ことに大企業をクライアントとする企業法務にあっては,クライアント側に弁護士についての十分な情報収集能力と選別能力があるので競争は法的サービスの質の向上をもたらすであろう。しかし,一般市民にとっては,弁護士に事件を依頼すること自体一生に一度あるかないかという頻度であり,自らの経験に基づいて弁護士の優劣を判断することなどおよそ不可能である。この点において自ら消費することによってその質やコストパフォーマンスを判断しうる一般の商品やサービスの提供と法的サービスの提供とでは,本質的な違いがある。継続的・反復的な法的サービスのニーズを持たない一般市民の立場で考えるならば,どの弁護士を依頼しても一定の水準の法的サービスが受けうることを望むであろう。さらに,市場原理に委ねるということは,弁護士がその職務遂行において経済効率を優先させることに帰着する可能性があるが,そのことが果たして法的サービスの向上に結びつくかはきわめて疑問である。また,十分なスキルを習得していない弁護士が市場で淘汰されるメカニズムもないことも考慮しなければならない。
(2)弁護士の倫理面での質の低下の虞
 ア 市場原理と倫理的水準の確保の問題
      市場原理論は経営に行き詰ったものは市場から退場することを想定しているが,必ずしも経営に行き詰った弁護士が市場から直ちに去るわけではない。市場から去らずに,事務所経営を維持していくために弁護士倫理上問題あるような行為を行うものが出る虞もある。そのような事態が生じたとき,事後的に当該弁護士を懲戒等によって処分しても,いったん生じた市民の被害を回復することはできない。まして弁護士の職務は時として依頼者の一生を左右しかねない場合があるのであり,回復不可能な被害を市民に与えることも想定される。そしてこのような弁護士による非行と市民の被害が頻発するようになれば,弁護士という職業自体への信頼が著しく損われることは必定である。
 イ 濫訴社会の招来の虞
   弁護士人口を市場原理に委ねるということは,弁護士がその職務遂行において経済効率を優先させることに帰着する可能性があるが,そのことが,従来弁護士としては避けるべきとされていた,法的解決になじまない案件であっても受任する,解決の見通しがないにもかかわらず事件を受任する,安易に成功を約束して事件を受任する,あるいは正当とは言い難い利益を求める依頼者からの依頼を受けるなど,濫訴に繋がりかねない事態を招来する虞がある。
   諸外国の例を見ると,弁護士人口の増加により訴訟件数も増加しており,供給が需要を喚起することが示唆される。しかし,その増加する訴訟が,本来法的手続による解決がなされるべき社会的紛争の顕在化という意味での適正さを保ちうる保証はない。アメリカを典型とするような訴訟社会が,我が国が目指すべき「法の支配」を社会の隅々にまでゆきわたらせた自由・公正並びに透明性の高い法化社会であるとは思われない。
 ウ 基本的人権の擁護と社会正義の実現のための活動への影響
   弁護士法一条は基本的人権の擁護と社会正義の実現を弁護士の使命として規定する。これまで弁護士は公害事件,薬害事件,国選弁護事件,えん罪事件,少年事件,消費者事件,国賠事件,障害者問題,差別問題などの社会性をもった様々な問題について積極的に取り組んできた。また,日弁連,各弁護士会連合会,各単位弁護士会は,人権擁護や法律制度の改善において,大きな役割を果たしてきた。これは,このような公益活動を担う多くの弁護士が存在したからこそである。しかし,弁護士人口を市場原理に委ね,弁護士が経済効率を最優先して採算性の確保を第一の眼目とせざるを得えないという事態となれば,これまで弁護士が果たしてきた基本的人権の擁護と社会正義の実現のための活動が影響を受けることは避けられない。

4 弁護士過疎・偏在問題への取り組み
(1)弁護士の地域的偏在解消と弁護士人口の増加
   司法審意見は『法の支配』を全国あまねく実現する前提となる弁護士人口の地域的偏在の是正(いわゆる『ゼロ・ワン地域の解消』)の必要性をもって,弁護士人口の増加の必要性を根拠付けた。しかし,単純な人口増加だけでは弁護士の地域的偏在が解消しないことも明らかである。
   そもそも弁護士の過疎・偏在問題は,社会経済的要因により歴史的に形成されてきたものである。これまで弁護士がいないあるいは少ない地域(以下「過疎・過少地域」という)において弁護士業を行いたいと考えても容易ではない実情があったことによるものであるから,単に弁護士の総数を増加させれば過疎・過少地域において弁護士となる者が増加するという単純なものではない。すなわち,過疎・過少地域には司法修習終了後に就職しようとしても就職しうる法律事務所が存在しないし,直ちに独立開業するには資金面でもスキル面でも不安がつきまとう。そしていったん都市部に就職してスキルを得たときにはその地での生活が成り立っており,敢えて実情のわからない過疎・過少地域で開業しようとする意欲は持ちにくい。独自の施策が必要とされる所以である
(2)過疎・偏在問題への弁護士会の対応
   一般市民が身近で良質な法的サービスを受けることが困難な状況を弁護士会として容認できないことは言うまでもない。その意味で,弁護士の過疎・偏在問題の解消は急務である。日弁連,各弁護士会連合会,各弁護士会はこの問題に総力を挙げて取組み,かつ一定の成果を挙げてきた。
   1996(平成8)年5月に名古屋で開催された日弁連定期総会において,「弁護士過疎地域における法律相談体制の確立に関する宣言」(名古屋宣言)が決議された後,全国の各単位弁護士会は2001(平成13)年5月までに法律相談センターを設置するための5か年計画を作成してその実行に取り組んだ結果,弁護士過疎・偏在地域に居住する市民の司法アクセスが相当程度改善されている。
   2000(平成12)年の石見ひまわり基金法律事務所の開設を皮切りに,全国の弁護士過疎地域に80カ所以上の過疎地型公設事務所の設置・運営を支援する活動を行っており,今後も更に過疎地型公設事務所は増加する予定である。宮城県内においても,既に,登米市,気仙沼市においてひまわり基金法律事務所を開設しており,本年角田市と栗原市築館にもひまわり基金法律事務所の開設を予定している。
      更に,日弁連は,「弁護士偏在解消のための経済的支援策」に基づき今後5年間にわたり弁護士過疎・偏在地に赴任する弁護士を養成する公設事務所(偏在対策拠点事務所)の開設支援,弁護士過疎・偏在地に赴任する弁護士を養成する事務所の事務所拡張費用・養成費用支援,弁護士過疎・偏在地への赴任のための準備支援や独立開業支援を行うこととした。
      東北弁護士会連合会も弁護士過疎・偏在対策に取り組むため2007(平成19)年9月に「やまびこ基金」を設置した。日弁連の経済的支援とやまびこ基金により,東北6県の過疎・偏在地において業務を行う弁護士の養成を目的として2008(平成20)年4月仙台市内に「やまびこ基金法律事務所」が開設される。
   上記のような日弁連・各弁護士会連合会・各単位弁護士会の取り組みの中,弁護士過疎・過少地への赴任や開業にあたって,十分な経済的支援や技術的支援が受けられることや事務所経営が成り立つことが弁護士の間に認知され,弁護士過疎・過少地への赴任や開業を希望する弁護士が増えている。
   弁護士過疎・偏在問題は,弁護士増員によって解消される問題ではなく,上記のような日弁連・各弁護士会連合会・各単位弁護士会の取り組みにより初めて解消される問題であり,かつ,現実にも着実に解消に向かっている。

5 法曹需要の多様化・高度化などと弁護士人口との関係
  司法審意見書は経済・金融の国際化の進展や人権,環境問題等の地球的課題や国際犯罪等への対処,知的財産権,医療過誤,労働関係等の専門的知見を要する法的紛争の増加,社会経済や国民意識の変化を背景とする『国民の社会生活上の医師』としての法曹の役割の法曹需要の多様化,高度化から法曹人口の増大を求める。確かに,法曹需要の多様化,高度化は今後進展するであろう。現在でも特定の専門分野については依頼しうる弁護士を見いだすのが困難な事例も存在する。しかしながらそれは弁護士人口全体の増加によって解消しうる問題ではない。それは正に弁護士の意識的な自己研鑽による専門スキルの習得とそのような弁護士の一般市民に対する紹介体制の確立の問題であって,およそ弁護士人口の問題ではない。この点については今後の取り組み課題として医師における認定制度,指導医制度などを参考とした専門性とそれについての情報開示についてさらなる体制の整備を図っていく必要がある。
  また多様化,高度化とは異なる次元の問題として受任困難案件がある。例えばDV,民暴事件,少年事件等では一般市民が,受任弁護士を見いだすのに困難を感じることがあることは認識している。しかしながらこの問題も弁護士人口を増やせば解決するものでないことは明らかである。市場原理に支配され,弁護士が採算性の確保を第一の眼目とせざるを得ない事態となれば,この種の事件を受任する弁護士は今以上に減少するおそれがあることは明らかである。このような事件こそ,弁護士が弁護士法一条の使命に基づいて受任すべき案件に属するものであって,受任体制の整備に努める必要がある。

6 法曹養成制度について
  法曹人口の増加と軌を一にして法科大学院による法曹養成が開始された。従来の司法試験一本という「点」ではなく「面」としての法曹養成を企図したものである。
  法科大学院については必然的に司法試験を目指す学生の経済的負担の増加を伴うものであって,その卒業を資格試験としての司法試験受験の要件とすることについては議論の存するところである。
  従前法科大学院卒業生の7割程度が合格しうるような司法試験の制度設計にすべきと言われていた。しかしながら,そもそも法科大学院は一定の認可基準を満たせば設立しうるものであってその定員数の定めに制約はない。法科大学院がそのような存在である以上,その卒業生の何割が司法試験に合格しうるようにすべきであるとし,法科大学院の学生の数によって司法試験合格者の数を規定するという考え方は,国民が必要とする数を,質を維持しながら確保するという理念に背馳するものといわなければならない。法科大学院卒業生の7割程度が合格しうるような司法試験の制度設計にすべきとの論は,そういうレベルを有する教育内容をもった教育機関を目指すべきという意味と解すべきである。
  なお現実の問題としては,法科大学院が当初の構想よりはるかに多く設立されたため,司法試験合格率が結果的に低いという事態が生じている。しかしそれは既に述べたように認可基準を満たせば数的制限なく設立しうるという制度設計の結果であって,そのような事態が生じているからといって,司法試験合格者数削減が相当でないとすることの根拠とはなりえない。

7 結語
  我々弁護士は,今後とも「『法の支配』を社会の隅々までゆきわたらせ,社会のさまざまな分野・地域における法的需要を満たすために,国民が必要とする数を,質を維持しながら確保する」努力を主体的かつ積極的に続けていく。
  しかしその目的を達するためにも、我が国における適正な法曹需要との均衡が維持される必要がある。日弁連は,2000(平成12)年11月1日の日弁連臨時総会決議において,法曹人口の増加を積極的に推進する立場をとったが,司法審意見書が出されて7年近くが経過する中で,想定されていた法曹需要が客観的に認められないことや,法曹需要が認められない中での弁護士のみの大幅増員が最終的にユーザーである市民や企業を犠牲にする弊害を生み出す虞のあることが明らかとなってきた。現状のまま2010(平成22)年ころまでに司法試験合格者数を年間3000人に増加させる計画が実行に移されるならば,取り返しのつかない社会的弊害が生ずることは明らかである。従って,我が国の弁護士人口を現実の需要に即した適正なものとするためには,司法試験年間合格者数を削減する方向で直ちに見直す必要がある。
  当会は,このような観点から,司法試験合格者数を年間3000人程度とする極端な弁護士人口増加政策の変更を政府に求めるものである。
    以  上

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