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2008年3月 9日 (日)

河北新報 コルネット 社説 揺らぐ法曹増員/市民の目線、基本に据えて

リンク: 河北新報 コルネット 社説 揺らぐ法曹増員/市民の目線、基本に据えて.

 「弁護士と医師にまつわる課題には似通った面がある。訴訟社会化の進行と医療の高度化による不足感の高まりと、人材の都市部への偏在だ。安心・安全な社会へ、身近に託せる専門家を欠く状況を放置できない。 需要の量的増大と質的多様化に見合った増員は必然だ。訴訟をめぐる気質の違いがあるにしても、10万人当たりの法曹人口は欧米に比べ格段に少ない。」
 相も変わらぬ市民目線に名を借りた増員論であるが地元紙だけに見過ごせない。以下逐一反論したいと思います。
 「仙台弁護士会も2月の定期総会で、法的サービスの劣化や乱訴などの弊害が予想されるとして、合格者数を減らし、弁護士人口の適正化を求めた。計画と現実にずれが生じるのは常であり、見直しには柔軟に対応すべきだ。ただ、今回の提起は拙速感が否めず、説得力にも乏しい。」
 拙速感が否めずとはどういう意味なのだろう。もっと早くから見直しを言うべきだったのに急に言い出したということだろうか。そんなことはない、平成12年以来弁護士会の3分の1の会員は極端な増員論に反対であった。しかし多数派が大丈夫需要も増えるからと言って反対を抑えてきたのです。しかし実際に7年間経ってみて需要は増えないし、就職することすらできない新規合格者が生まれる事態となったために、これ以上座視することができずに会として反対に踏み切ったのです。拙速との誹りを受ける謂われはありません。説得力に乏しいと言うが、本当に提案理由を全部読んだ上で書いているのでしょうか。
 「法曹の増加が弁護士に偏っている事情はある。急激な増加により、就職や仕事の流れなどで想定外の変化もあるだろう。それでも見直し論は業界優先の印象をぬぐえず、過当競争の筋立て自体、近視眼的に映る。」
 就職難は想定外の出来事ではありません、かねてより危惧されていたことが現実化しただけです。仕事の流れなどで想定外の変化などありません。仕事は大して増えないという予想がそのとおりになっただけです。業界優先の印象といいますが、弁護士会ほど業界意識の希薄な団体はありません。私を含めて弁護士会が、世間一般で言われる「業界」だと認識している弁護士は極めて少ないでしょう。敢えて誤解を恐れずに言わせてもらえば、弁護士会にも人権擁護に重点を置く者と、業務対策に重点を置く者がいます(この2つは両立しないものではありませんが)が、弁護士激増政策に強く反対する者には前者が多いのです。人権擁護を基盤とする弁護士会、弁護士層の解体を危惧して反対しているのであって、それを業界優先と言われることは誠に心外に堪えません。「過当競争の筋立て自体、近視眼的に映る」というのは、ちょっと何を言おうとしているのか分かりません。従来500人だった新規合格者が3000人になれば少なくとも若年層において過当競争となることは誰がどう考えても当然のことだと思います。
 「来年には、国選弁護人制度の拡充で国選弁護の対象が広がり、裁判員裁判も始まる。弁護士需要は高まり、えり好みさえしなければ、仕事量は増えこそすれ減ることはあるまい。」
 この社説を書いている人は国選事件の報酬の額を知っているのでしょうか。1件7万5000円の国選を年間100件やったとしても(とても100件はやれませんが)750万円です。750万円の給料をもらえるのではありません、事務所の維持経費だけで最低年間1200万円はかかるのです。採算を考えなければどんな個人も会社も仕事に困ることなどありません。でもそれをやると倒産するのです。
 「法務部門の強化を図る企業などに勤務する弁護士が増え、資格を生かせる新たな職域も広がってきている。」
 よくこんな無責任なことが言えるものです。企業に勤務する弁護士など全国合わせても200名程度のはずです。しかも今後増やす予定のある企業は極めて少ないという調査結果が出ています。資格を生かせる新たな職域がどこにあるのか教えて下さい。河北新報は弁護士を雇用していません。偉そうなことは弁護士を1人でも雇用してから言っていただきたい。
 「一方で、「司法過疎」の状況は解消していない。全国203の地方裁判所・支部の管轄地域で、弁護士がゼロか1人しかいないため、裁判を管内の弁護士だけで担えない地域が24もある。日本司法支援センター(法テラス)も必要なスタッフを確保できていない。」
 0~3地域の解消に必要な弁護士数は約80名です。これは数年以内に解消する目処は立っています。法テラスがスタッフを確保できないのは余りにも勤務条件が劣悪だからです。勤務条件を知って書いているのでしょうか。
 「弁護士らによる法律相談態勢は地方ほど手薄だ。多重債務問題に絡む事件などを未然に防止する観点からも早急な整備が望まれている。」
 そもそも多重債務問題は人災なのだという視点が全く欠落している。利息制限法を無視した貸し付けを野放しに(野放しどころか助長してきた)政策と、サラ金の機関誌と見紛うばかりの広告の洪水を流し続けてきた新聞社こそがその責任を負うべきです。地方でも相談体制は相当程度整っています。むしろ業者だけではなく友人知人からも借り入れをしていて、地縁血縁の関係でぎりぎりまで弁護士に相談しずらいという風土の問題が大きいのです。
 「弁護士と医師にまつわる課題には似通った面がある。訴訟社会化の進行と医療の高度化による不足感の高まりと、人材の都市部への偏在だ。安心・安全な社会へ、身近に託せる専門家を欠く状況を放置できない。」
 これも全く認識不足です。「訴訟社会化の進行による不足感の高まり」など一体どのような現象を差して言っているのでしょうか。幸いなことに日本社会は未だ健全性を失っておらず訴訟社会化していません。医師不足は医療の高度化によるものではありません。医師の総数は足りていますが、救急医療、産科、小児科、勤務医が不足しているのです。救急医療、産科、小児科について言えば、危険でキツイ仕事なのに従前診療報酬上何ら適切な措置が取られてこなかったことが原因です。今までは使命感でやってきたがもうやってられないということなのです。勤務医不足も開業医優先の診療報酬体系の問題です。
 「需要の量的増大と質的多様化に見合った増員は必然だ。訴訟をめぐる気質の違いがあるにしても、10万人当たりの法曹人口は欧米に比べ格段に少ない。」
 需要の量的増大があれば反対しません。それがないから反対しているのです。あるというなら数字で示して下さい。10万人当たりの法曹人口を比較するなら、諸外国では弁護士が行っている法律隣接専門職の人数を加味して比較して下さい。決して少なくありません。
 「法科大学院の機能強化、司法修習の充実など工夫次第で、質の低下は避けられよう。」
 そういう意味での質の低下を言っているのではありません。
 最後に社説といえども取材してから書くべきでしょう。仙台弁護士会の決議を引用して社説を書いていますがそれなら弁護士会に取材するのは当然ではないでしょうか。河北の社説は全国紙の社説に比べれば品のよいものですが、やはり社説といえども一定の事実認識を前提にしているのですから、その事実認識が正しいかどうかについて取材しないというのは無責任というべきでしょう。

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