フォト

« 弁護士人口問題に対する仙台弁護士会の取組み | トップページ | 弁護士人口問題に対する日弁連の対応 »

2008年5月20日 (火)

弁護士人口問題

 青法協から機関誌に載せたいので加筆して送って欲しいと頼まれました。東北弁連の理事会でも示唆に富む意見がありましたのでそれを加味して原稿を書いてみました。ご笑覧ください。

弁護士人激増問題について                                                      仙台 坂野智憲
 

1 はじめに
  弁護士激増問題については、見直し論、激増維持論共にその論拠は出尽くしている観があるので、本稿では仙台弁護士会の動向、政策としての司法改革の欺瞞性、弁護士人口についての市民の意識について述べるにとどめる。
2 仙台弁護士会の動き
  仙台弁護士会は本年2月の定期総会において「司法試験合格者を年間3000人程度とする政策の変更を求める決議」を行った。法曹人口の在り方については、平成12年の日弁連臨時総会において大幅増員の方向性が承認され、平成14年には年間合格者数を3000人とする閣議決定がされた。その後、司法改革の大合唱の下で日弁連の歴代執行部はこの政策を支持してきた。仙台会でもこの激増政策について、単位会の力でどうなるものでもないという諦めが支配していたように思う。
  平成19年2月に愛知県弁護士会が初めて3000人増員政策の見直しを求める意見書を公表し、また司法修習生の厳しい就職状況が明らかとなった。仙台会執行部でも、当初は、増員政策の見直しは日弁連及び仙台会歴代執行部のやってきたことの否定、ひいては司法改革の否定につながる、過疎偏在の解消なしに増員見直しを言っても世論の袋だたきに遭うだけ等の理由で見直しには消極的であった。しかし次第に増員問題は、これを座視していては弁護士の変質を招きかねず執行部として避けては通れないとの認識が持たれるようになった。議論の末、10月に弁護士人口問題対策特別委員会が設置された。委員会では、総会決議を上げて日弁連を動かそう、各地で次々と決議が上がれば日弁連も無視することはできないはずということで総会決議を目指すことになった。その後執行部内で激しい議論がなされ、消極論も強かったものの、中部弁連や中国地方弁連の同種決議もあり総会に提案することになった。定期総会では1時間を超える激しい質疑討論がなされたものの賛成多数で承認された。時を前後して埼玉会、千葉会でも同種の決議がなされた。
  去年の今頃は、激増政策については物言えば唇寒しの状況にあったが、今では日弁連も見直しに向けた暫定的提言を検討するまでになった。常々日弁連が単位会を軽視し、政策決定に当たってWGを多用して単位会照会すら行わず、また単位会や弁連も日弁連の顔色をうかがう傾向にあることを苦々しく思っていたが、単位会が声を上げることの重要性を再認識させられた。
2 司法改革の欺瞞性
  司法制度改革審議会の会長であった佐藤幸治氏は、法科大学院協会理事長を退任するに当たって「従来国民から縁遠く高嶺の花であった司法を、国民の身近にあって頼りがいのある国民の司法に改めるべく、それに必要な様々な提言を行った。政府はこの提言を国家的戦略と位置付けてその実現に懸命に取り組み、ここに司法制度改革は国民的総意となった。」「今ここで増員計画を変更することは、国民の司法を確立するという国民的総意となった司法制度改革そのものを未完のままに終わらせることになるものと危惧される。」と述べている。
  バカを言ってはいけない。裁判所所管歳出予算は2000年3186億円が2007年3300億円、国家予算に占める裁判所予算の割合は2000年0,375%が2007年0,399%、検察庁予算は2000年1055億円が2007年1048億円、法律扶助事業費補助金は2000年21億円が2007年24億円でいずれもほとんど変わっていない。日本司法支援センター運営交付金は僅かに102億円である。司法審意見書では裁判官及び検察官の大幅増員の必要が明記されたが具体的な数値は示されなかった。その結果、裁判官は平成12年3019名が平成18年3341名、検察官数は平成12年2231名が平成18年2479名と微増にとどまっている。これでは「国民の司法に改めるため国家戦略として取組んでいる」などと言えるはずはなく、「国民の司法を確立するという国民的総意」などなかったことは明らかである。
  司法審意見書は、司法の役割について「法の支配の理念に基づき、すべての当事者を対等の地位に置き、公平な第三者が適正かつ透明な手続により公正な法的ルール・原理に基づいて判断を示す司法部門が、政治部門と並んで、公共性の空間を支える柱とならなければならない。」としている。私は、司法の役割についてのこの認識は理念としては全く正しいと考える。しかしそれを現実の政策として実現するには「人」もさることながら、膨大な「物」と「金」が必要である。司法審は「人」の数については、年間3000人、総数5万人という具体的目標とそのプロセスを示したが、「人」の中身と「物」「金」については何ら具体的数字を掲げなかった。そのため「法の支配を津々浦々に」「国民の社会生活上の医師」というフレーズと相俟って、あたかも司法改革イコール弁護士の増加であるかのような誤解を世間に与えてしまった。
  司法審意見書の美辞麗句は耳に心地よいが、平成14年以降の政府の対応を見ればそれが市民を欺く欺瞞であったことは明らかである。一部の財界人と政治家は、アメリカ政府の増員要求と規制緩和万能論に便乗して、安く使い勝手の良い弁護士をビジネスに利用すると共に人権・労働・環境問題などでうるさいことを言う弁護士会を弱体化させようと考えたのであろう。現在司法改革と呼ばれている政策は、このようなネオリベ派が、理想を掲げる弁護士と学者を巻き込んで作り上げたもののように思える。しかし所詮同床異夢に過ぎなかった。
  その必然の結果として司法予算の大幅増額も、裁判官・検察官の大幅増員も行われず、弁護士のみの激増という事態が生じている。中央官庁、地方自治体、企業による弁護士の雇用もほとんど進んでいない。結局法曹全体の量的拡大と言いながら実際には従来型の法律事務所に雇用される弁護士のみが増えたのである。このようないびつな増え方は司法改革が目指したものではなかった。このままいびつな増え方が続けば、まさにネオリベ派の狙い通りに仕事にあぶれた弁護士をスポット的に安く都合よく使える態勢ができてしまう。司法改革は現実の政策である。そして政策の目指すものは必ず数字に現れる。正しい理念の裏で現実に誰が何を目指しているのかそろそろ気づくべきであろう。
3 弁護士人口に対する市民の意識
  弁護士人口は国民が決めることだと言いながら、本格的な弁護士人口に対する市民の意識調査は行われていない。もちろん弁護士を増やすべきかどうかを裸で聞けば、漠然と少ないよりは多い方がよいので増やすべきだという答えが返ってくるかもしれない(ヤフーのネット調査ではこのような聞き方でも増員に賛成と反対の比率は1対2で反対が多かったが)。激増政策を支持する者は、法的需要はたくさんある、国民は弁護士人口の増加を望んでいると言う。しかし無料で困り事を聞いてくれる弁護士なら多ければ多いほどよいであろうが、実際に弁護士を依頼するにはコストがかかる。無料法律相談のレベルでの需要とコストを負担しての需要では全く意味が異なる。
  2006年の弁護士の経費控除前の収入の中央値は3453万円、当時の弁護士数は2万2000人であるから一応弁護士全体で7596億円の市場と言うことができる(この中央値は眉唾物で実際はこれほど大きな市場ではないと思うが)。このまま5万人になると市場は1兆7265万円になる。仮に将来、売上が2000万円程度に減少すると仮定しても1兆円である。この増加する2404億円~9669億円のコストは当然依頼者である市民や企業が負担することとなる。10万人になればその倍である。しかしこのようなコストを負担してまで弁護士を激増させようという国民的合意が存在するとは到底考えられない。
  現在医師不足が言われ、地方自治体は相次いで医師増員を求める決議や意見書を出している。自治体病院の中には数千万円の年収を提示したり、医学部の学生に対する多額の奨学金の制度さえ設けるところがある(弁護士に関してはこのような動きはなく、その一事をもっても市民の弁護士人口に対する意識は分かろうというものだが)。それだけ医師不足は深刻であり地域住民が実際に医師を求めているということである。しかし国は医師は不足していないと一貫して主張し弁護士のような激増政策など決してとろうとはしない。理由は簡単である。国民皆保険制度の下で医師の激増政策などをとろうものなら国の財政はパンクするからである。しかし実はコストがかかるのは弁護士人口も同じであって、国の財政は痛まないが市民や企業はそのコストを被らなければならないのである。そのことを知れば市民は激増政策にノーと言うはずである。

« 弁護士人口問題に対する仙台弁護士会の取組み | トップページ | 弁護士人口問題に対する日弁連の対応 »

ロースクール・弁護士人口問題」カテゴリの記事

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/522409/21044604

この記事へのトラックバック一覧です: 弁護士人口問題:

« 弁護士人口問題に対する仙台弁護士会の取組み | トップページ | 弁護士人口問題に対する日弁連の対応 »

最近のトラックバック

無料ブログはココログ
2016年8月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31