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2009年6月の5件の記事

2009年6月28日 (日)

古川警察署が裁判所からの解剖記録の送付嘱託を拒否

 医療事故で業務上過失致死が疑われる場合には、捜査機関は鑑定処分許可状をとって遺体の司法解剖を行います。通常は大学病院で解剖が行われ、解剖所見は鑑定書として捜査機関に提出されます。
 現在私が裁判を行っているケースは県北の公立病院で胸腔穿刺をした際に動脈を3カ所損傷し出血多量で死亡した事案です。被告は死因は出血多量ではない、動脈損傷の態様も異なるとして争っています。そこで裁判所に解剖所見の送付嘱託(大学病院から提出された解剖所見の鑑定書の写しを裁判所に送ること)を申し立て、裁判所はこれを認めて古川警察署に送付嘱託をしました。ところが古川警察署は捜査中を理由にこれを拒否しました。
 警察は従来も捜査終了まで司法解剖の鑑定書は遺族にも開示しません。検察庁も同じです。起訴あるいは不起訴になれば現在は一定の手続きで見ることができるのですが、捜査中は一切開示しないというのが捜査機関のかたくなな対応です。
 ところが交通事故事案で作成される実況見分調書(事故状況を検証したもの)については捜査中であっても弁護士照会や裁判所の送付嘱託に応じています。両者とも客観的な証拠であり、他に代替性がなくまた開示しても証拠隠滅のおそれなどない点で共通しています。ですから実況見分調書は開示するが剖検所見は開示しないというのは全くおかしな話です。まして裁判所が必要と認めて送付を嘱託しているのにそれを拒絶するのは全く不合理です。別に県警には特別な考えがあって送付に応じないのではなく、何も考えずに単に前例通りにしているだけです。
 このような対応は被害者救済を警察が妨害するもので、被害者救済の理念にも全く反しています。警察では犯罪被害者支援窓口を作っているようですが被害者救済の必要性についてどのように考えているのでしょうか。
 警察は交通事故やその他の事故事案でも解剖所見については同様な対応をしています。ただ交通事故のような場合は捜査が長期に渡ることはないのでそれでも実害はないのです。既に述べて様に起訴あるいは不起訴になれば見ることができるので。ところが医療過誤の場合には捜査機関は捜査と称して実に長期間に渡って棚晒しするのです。その上で公訴時効直前に不起訴ですませるのが通例です。医療過誤の刑事事件は警察にとっても非常にやっかいなものですから、そのような扱いをしたくなる気持ちは分かりますが、本件では遺族は告訴も被害届も出していません。別に立件してくれなくとも構わないし、さっさと検察庁に書類送検して不起訴にしてくれても全く構わないのです。
 ところがこのように棚晒しにされると、遺族はいつまで立っても剖検所見を入手できないし、被告が死因を争った場合には剖検所見以外に立証資料はありませんので大変な迷惑を被ります。死亡診断書とカルテでの立証で勝てるとは限りません。負けたら県警のせいです。これまでも同じことがありましたが、今回県警は病院関係者の取り調べなど捜査らしいことは何もしていません。それで捜査中だから送付できないなどというふざけた対応は腹に据えかねます。今後同種事案でこのような理不尽なことが行われないようにしなければならないと思うので、もし遺族の同意が得られれば、知る権利と裁判を受ける権利の侵害を理由に県警相手に損害賠償の訴訟を提起しようと考えています。l

仙台医療問題研究会 医療事故シンポジウム

 6月26日(金)、仙台弁護士会館4階ホールで、仙台医療問題研究会主催の医療事故に関する講演とシンポジウムが行われました。「なぜ病院は事故を隠したのか」というテーマで、都立広尾病院事件の被害者の夫である永井裕之さんに講演していただき、その後永井さん、東京の医療過誤弁護団の松井弁護士、研究会の小野寺、増田両弁護士によるディスカッションが行われました。
 永井さんの講演では、都立広尾病院で奥様が入院中誤って消毒薬を点滴されて死亡された事件について、病院と東京都の医療局がどのように医療過誤を隠蔽しようとしたのかが詳細に語られました。結局点滴に関与した看護師2名は刑事事件で有罪となり、病院も懲戒免職となったようです。病院が最初から過誤を認めてきちんと説明と謝罪をしていれば、刑事事件はおろか民事訴訟にもならなかったはずです。病院は隠した理由について若い芽を摘みたくなかったと言ったようですが、そのことが逆にこのような不幸な結果をもたらしたのです。若い芽を摘みたくないなどというのは言い訳で病院と東京都の官僚には自己保身の発想しかなかったのではないかと思います。
 シンポジウムでは現在法案が公表されている医療安全調査委員会について議論がなされました。医療安全調査委員会については、まだまだ庇い合いの体質が残る医療界にあって、医療従事者中心の調査会では公正な判断は期待できないのではないかとの疑問があります。この点については、医療事故の原因究明の第三者機関がない現状を変えるにはとにかく新たな機関の創設が不可欠であり、不十分な点は今後改善していくほかない。最初から完全な制度などないのであるから、とにかく制度を作り、医療従事者以外の法律家や患者が参加することで透明性を確保していくべきだとの意見が出されていました。
 傾聴すべきご意見ですが俄に賛成できません。司法改革の名の下で裁判員制度、ロースクール、法テラス、刑事訴訟への被害者参加制度などが次々作られ、弁護士激増政策が推進されました。そこで言われたのも最初から完全な制度などない、欠点はあってもとにかく前に進むことだ、欠点があれば改善して行けばよいのだということでした。
 たしかに経済政策レベルの問題であれば、とにかくやってみよう、結果がおもわしくなければその時点で見直せばよいということになるのでしょうが、重要な制度の創設や制度の根幹に関わる改正にあたっては慎重な上にも慎重な検討が必要です。特に官僚が作る場合には、彼らは一旦作ったものは余程のことがない限り見直さないという現実を見るべきです。日弁連は弁護士自治を奪うぞと脅されて、慎重な検討を放棄して次から次へと欠陥商品のような制度が作られるのを放置してきました。その二の舞を演じてはならないと思います。
 一旦厚生労働省の下に医療安全調査委員会ができてしまえば、その報告書は絶大な権威を持つことになります。事故直後に解剖を行い、強い調査権限に基づいて資料を収集し、その道の権威とされる臨床医の合議での結論ということになれば、それが仮に偏った判断だとしても民事裁判でその結論を覆すなどということは不可能です。それは裁判の先取りに他なりません。しかし調査委員会の調査方法については具体的な定めはなく、患者が調査手続きに主体的に関わる手続き的保証もありません。従ってこの制度は運用如何では医療過誤の免罪符となりうるものであり、そうならない保証はどこにもありません。医療集中部ができて、裁判所もようやく従来の鑑定偏重を改め、自ら考え判断しようとする機運が盛り上がっているのに、このような委員会ができてしまえば、死亡事故に関する限り調査会の結論に盲従することになりかねません。
 私もこれまで多くの医師と接する中で、個々の医師が大変誠実で優秀な方が多いということは理解しています。しかし他の医師の責任を明らかにするという場面ではどうしても庇い合いが起きてしまうことは避けられないと思います。ですから絶対的な権威を持つことになるであろう国家機関としての医療安全調査委員会を作るよりは、院内の医療事故調査委員会の在り方を抜本的に改善するという方向性の方が良いような気がします。
 もし仮に医療安全調査委員会を作るならば、委員会の調査の過程と議論の内容について逐語的な議事録を作り、委員会に提出される一切の資料も含めて、少なくとも患者には全て公開するというルールを法案に明記すべきです。それがなければ報告書の公正さの担保も透明性もあり得ないというべきでしょう。

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2009年6月11日 (木)

大腸内視鏡検査で医師が逮捕 冤罪か?

 少し前に大腸内視鏡検査をした際、女性看護師が席をはずした間に医師が内視鏡を膣に挿入したとして強制わいせつで逮捕された事件がありました。5年も前の事件ですが、このままでは時効になると思って届け出たという女性の申告を下に逮捕されたようです。医師は手元が狂っただけで故意ではないと否認しているそうです。この記事を読んだときは「5年も前の事件をどうして今更警察に届け出たのか、逮捕までする必要があるのか、まして実名報道まで」と思っただけでした。その後医師の書いたブログの記事を見ると、たくさんの医師の方が「一人でやる場合には肛門が見えにくい場合もある」「挿入しやすいようにゼリーを塗るので誤挿入はありえる」「実際間違って膣に挿入したが女医だったので何も言われなかった」などかなり多数の手元が狂うことはあり得るとの意見が載っていました。
 よく考えてみると「患者には確実にバレル、看護師がいつ戻ってくるか分からない、内視鏡で中を見て何がおもしろいのか?患者に騒がれたときのリスクの大きさ」などから敢えてこのようなことをする動機があるのか甚だ疑問です。ですから私が捜査担当者であれば、「誤挿入の可能性についての専門医の意見、女性看護師が席をはずした理由は何か(医師の指示か、その指示に合理的理由はあるか)、挿入していた時間はどの程度か(モニターを見れば誤挿入はすぐ分かるので長時間なら故意が推定される)、5年間の間に友人知人、弁護士、相談機関などに被害相談をしたか、もししなかったのならその理由は、5年も経って被害申告した理由」などについて慎重に捜査した上でなければ逮捕などしないと思います。本件がそのような捜査の上で明らかに誤挿入ではなく、被害者の供述が信用できると確信したのであれば立件すること自体は正しいのでしょうが。
 次に逮捕ですがこれはどんな理由でも正当化できそうにないと思います。一般の方は逮捕がどのような場合に許されるか知らないと思いますが、逮捕は逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれがある場合に初めて認められるのであって、自白を得るために認められているものではありません。本件の場合この程度の犯罪で医師という職業も家族も捨てて逃亡するとは到底考えられません。次に証拠隠滅ですが、二人だけの空間での犯行であり物証などはあり得ないので、存在する証拠は被害者の供述のみです。この場合の証拠隠滅は被害者に対する威迫位しか想定できませんが、加害者の職業、地位からして警察から任意の事情聴取を受けた後で被害者を脅すなどという事態はおよそ考えられません。本件逮捕は明らかに自白をとるための違法なものだと思います。
 それにしても密室でのこの種の犯罪は恐ろしい。証拠としては被害者の供述と自白しかないので、自白強要が起こりがちだし、いったん自白したら他に証拠がないだけに身の潔白を証明しようがない。私が夜事務所で女性の相談者ないし依頼者と二人きりになって、その女性が警察に強制わいせつされたと被害届を出せば、それが嘘でも私はおそらく逮捕されるのだろう。実際に痴漢などの被害に遭われている方も多いし、それについて処罰の必要があることはもちろんなのだが、やはり事件の特性から被害者の供述の慎重な吟味が不可欠だと思う。私は昔ボス弁から相談室のドアは必ず開けておくようにと言われたことがある。今でも私はそれを実践しているし、相手が女性の場合には事務員がいない時間帯には相談はしないようにしている。
 それにしても裁判官は安易に逮捕状を出しすぎる。マスコミの実名報道も酷すぎる。もっと自分の身になってかつ洞察力を働かせて仕事をしたらどうであろうか。

科学と刑事裁判 足利事件と北陵クリニック事件について思う

 足利再審請求事件で菅家さんが釈放されました。女児の着衣に付着していた体液とDNAが一致しないとの再鑑定結果が出たためです。足利事件は最高裁が初めてDNA鑑定の証拠能力を認めた事件だったはずですが、実は当時から旧DNA鑑定にはその信頼性の低さから証拠能力に疑問が呈されていました。実際当時の旧DNA鑑定の精度は1000~数千人に1人程度の同一性しか判断できないもので決定的証拠とは言い難いものでした。裁判官の科学に対する知識は大学入試程度のもので、司法試験に合格後も科学捜査についての教育などは行われません。ですから証拠として提出される鑑定書を読み解く能力があるわけではありません。そこで「専門化である○○○が○○としており、鑑定の手法に特段疑問な点はないので」などとして鑑定結果に盲従する判決が出てしまうことになります。そして裁判所はいったん下した結論はなかなか見直そうとはしません。足利事件でもこれまで何度も再鑑定の申請がされましたが、裁判所はことごとく退けました。今回ようやく再鑑定が実施され、やってみたら違うという結論になったのです。再鑑定をしなかった裁判官には旧DNA鑑定と現在のDNA鑑定では精度が全く異なることが理解できなかった(理解しようとしなかった)のでしょう。
 足利事件では証拠品が保存されていて再鑑定することができました。そして本当の科学は嘘をつきませんのでこのような結果になったのです。しかし北陵クリニック事件(守大介冤罪事件)ではベクロニウム(筋弛緩剤)が検出されたとされる点滴ボトルや被害者の血清は、科警研の鑑定の過程で全量消費され、再鑑定ができません。全量消費しなくともごく微量で鑑定は可能なのに、全く不自然な全量消費がされています(鑑定で消費したのではなく単に廃棄したのだと思います)。ちなみに科警研の鑑定は、裁判手続きとして行われる鑑定ではありません。被告が争えば本来裁判所による正式鑑定がなされるべきものなのです。弁護団は再鑑定を不可能にする全量消費は違法であり、その結果である鑑定は証拠能力を有しないと主張しましたが、最高裁を含めて裁判所は一顧だにしませんでした。
 そもそも北陵クリニック事件で科警研が使った質量分析装置は、未知試料を測定する装置ではなく、精密質量の測定(分子の特定)ができないものだったのです。またベクロニウムの質量分析を行うと、必ずm/z557のイオンが検出されますが本件では標品(標準試料)からも鑑定試料からもそれが検出されていません。鑑定資料は既に存在しませんが標準試料はいくらでもあるので、科警研が行った方法では標準試料からですらm/z557のイオンが検出されないことが証明されれば鑑定の信用性は根底から覆ることになります。そこで弁護団は控訴審からこの点を証明するための鑑定を申請しましたが、控訴審も最高裁も採用しませんでした。おそらくこの鑑定の意味すら理解できなかったのでしょう。
 もちろん科学の素人である裁判官が理解できないのは当然のことなのですが、理解できない場合は、「本鑑定は専門家によって行われその者は本件に関して十分な知識と経験を有しており」などといって逃げるのではなく、自ら主体的に裁判所による鑑定を実施して理解する努力をすべきです。証明可能だから科学なのであって、科学的に正しいことは専門家の助力を得て勉強すれば必ず理解できるのです。
 プロの裁判官ですらこうなのですから、裁判員制度の下で科学鑑定の信用性が争点となった場合正しい判断がなされるのか甚だ疑問です。裁判員制度の下では従来の鑑定書は裁判員には分かりにくいので簡略化されるようです。しかし簡略化と分かりやすさは全く違うのであって、それは誤った発想です。理解するためには前提となる知見も含めて従来よりさらに詳細なものが必要なはずです。
 鑑定は専門家によって行われるものですから、素人である我々法律家はそれを鵜呑みにしがいがちです。そして鑑定は正しいとの前提で他の証拠を評価しますから、もし鑑定自体が誤っている場合には証拠を色眼鏡で見てしまうことになるのです。ですから刑事でも、民事でも鑑定の評価には慎重でなくてはならないと思います。また再鑑定しうるように鑑定試料は可能な限り長期間の保存が法律で義務づけられるべきです。それから裁判所独自の科学鑑定の施設を設けるか、少なくとも民間の施設との間で協定を結んで必要なときに必要な鑑定が実施できるようにするべきです。裁判所が被告人側からの鑑定申請を認めないのは、捜査機関と異なり科警研のような自らの鑑定施設を有していないことも大きな理由だと思われるからです。

2009年6月 6日 (土)

河北新報 内外のニュース/法科大学院59校が定員割れ 今春入学、13校は50%未満

リンク: 河北新報 内外のニュース/法科大学院59校が定員割れ 今春入学、13校は50%未満.

  河北新報によれば「全国の法科大学院74校のうち、80%の59校で今春の入学者が入学定員を下回り、うち13校は、50%未全国の法科大学院74校のうち、80%の59校で今春の入学者が入学定員を下回り、うち13校は50%未満だったことが5日、文部科学省のまとめで分かった。入学総定員5765人に対する入学者は計4844人で充足率は84%だった。志願者数は全体で延べ2万9714人と3万人を割った。受験者数は同2万5857人で合格者は同9186人、競争倍率は2・8倍だった。法科大学院は、修了者の新司法試験合格率が昨年は平均33%と低迷、質向上が課題とされている。法科大学院協会が実施した今春の調査では、少なくとも65校が2011年度までに定員削減をしたり検討するとしており、定員削減の動きに拍車が掛かりそうだ。文科省によると、千葉大(定員50人)は競争倍率が8・5倍と高く71人を合格としたが、入学者は41人と定員割れとなっていた。私立大では、姫路独協大(30人)が入学者5人、京都産業大(60人)が同19人、東北学院大(50人)が同18人などと定員割れ。国立大では、昨年の新試験の合格率が0%だった信州大(40人)が入学者17人で、定員の半数を割った。 入学者割合が100%を超えたのは12校で、熊本大(30人)が入学者35人、名古屋大(80人)が91人、上智大(100人)109人などだった。」とのことです。

  やっぱりこうなったかという感じです。定員割れした59校は受験者から見限られつつあるということで、ここまで来るともはや制度の崩壊ですね。ロースクールに行くのは司法試験合格が目的ですから、合格率の低いロースクールが見限られるのは当然と言えば当然の話です。もともとロースクールは15校位が適正規模だったのでしょう。
 可哀想なのは大学です。元々日本の大学の法学部は法律実務家の養成を目的にしていたわけではなく、卒業生の多くは企業や官公庁に就職していたわけです。ところが突然アメリカをまねしてロースクール制度を作り、その卒業を司法試験の受験資格にしました。司法試験の受験資格すら得られないような大学では法学部の入学者を確保できなくなるとの危機感からロースクールが濫立したのでしょう。生き残りを図るためであって大学を責めることはできません。ところでロースクールの専任講師の年俸は1200万円位だそうで、それ以外の事務職員も含めるとロースクールの人件費は相当な額に上ります。しかも施設を新築したところも少なくないので、各大学はロースクール制度のために膨大な支出をしています。ロースクールの定員と授業料から考えて単体で黒字のところはないはずです。学部生の授業料と私学助成金などの税金で穴埋めしているわけです。ロースクール制度ができなければ本来不要だった大学の支出や国民の税負担は膨大な額にのぼると思われます。
  ロースクールは、建前では受験対策に偏向するなどの旧司法試験の弊害の是正のために導入されたとされています。しかし、本当のところは、司法試験合格者を増やすことになったが従来の司法研修所では収容しきれないので導入したのです。そもそも司法試験の合格者を従来の500人から3000人に増やすというのが無謀だったわけですが、そのことをしばらくおいても司法研修所を2カ所くらい増設した方が税負担を含む国民負担は軽かったでしょう。私には現在のロースクールは大学の授業料と税金の無駄使いにしか思えません。
  文科省は役所の権限と予算が増えると思って賛成したのでしょうが、このような惨憺たる状況を見て、急遽定員削減を言い出しました。何もしないよりは良いと思いますが、思い切って廃止を検討すべきでしょう。そもそも世界中でロースクール制度があるのはアメリカ、カナダ、韓国(ごく最近できた)だけのはずです。ところがアメリカと日本では大学制度も法曹資格の意味も異なります。アメリカの大学には法学部は存在しません。ロースクールも元々は司法試験の受験資格とは無関係な専門教育機関だったのです。法曹資格についても、アメリカでは、法曹資格を与えた上であとは市場に委ねようという発想ですから、司法試験の合格レベルは日本の法学部卒業と大差ない(少し言い過ぎか?)のだと思います。もちろんハイクラスのロースクール卒業生は優秀なのでしょうが。だからアメリカでは司法試験に受かっても民間企業や官公庁で働いている人が多いのです。そのような違いも考えないで形だけロースクール制度を導入しても成功するはずがありません。
  大学も可哀想ですがロースクール生はもっと悲惨です。新司法試験の合格率は33%位ですが、不合格者が滞留していくので今後はもっともっと下がります。もちろん旧試験の合格率は2%位でしたから合格率だけ見るとましなのですが、経済的負担や合格できなかった場合のリスクが全く異なります。旧試験では受験資格に制限はなかったのでロースクールに行く必要はなく、自宅で勉強すればよかったのです。予備校もありましたが答案練習会(詳しい解説付きの模擬試験のようなもの)だけ受けていればそんなに費用はかかりませんでした。また働きながら受けることもできたし(私も都庁や専門学校で働いていました)、就職の可能性を残すために大学を留年して受ける人も多かった。ところがロースクールの場合は授業料が年間300万円位かかるし、仕事は辞めなくてはならないし、その間の生活費を借りるか誰かから援助してもらう必要があります。しかもロースクールに2年行って、その後5年間に3回受験してダメで、その時に就職しようとしても多分難しいでしょう。ロースクール卒業生の7~8割は合格できないのですから、正に貧困養成所のようなものです。
 文科省はロースクールだけではなく、国立大学法人に対して、博士課程の定員見直しを通知しました。博士課程を修了しても就職できない者が激増しているからです。大学院重点政策などと言っていたのはどこの誰だったでしょうか。他人の人生を弄ぶのはいい加減にして欲しい。
  ロースクール制度は、新自由主義を背景とした司法改革の渦の中で、十分な検討もされないままに導入されたもので、法曹養成制度としては欠陥商品そのものです。現在進められようとしている定員削減では大学の赤字を拡大させるだけで意味がありません。もし存続させるとすれば、大幅な統廃合しかないでしょう。しかしロースクール制度は、(学費の無料化+生活費の支給をしない限り)法曹を志す者に多額の経済的負担を負わせ、その負担能力のない者を除外するという根本的欠陥を有するものです。それを考えると廃止以外の選択肢はないと思います。ロースクールを廃止したところで、司法修習を1年6ヶ月に戻して、司法研修所を大阪と福岡あたりに増設すれば済むことです。大学にとってもこのまま赤字を垂れ流すよりは賢い選択です。
  私は正論を言っているつもりですが、弁護士会でこのような廃止論を言う会員はほとんどいません。なにせ日弁連が旗を振って優れた法曹養成制度だとして導入されたものですし、既に多くの会員がロースクールの教授や講師になっています。ロースクールの中には、弁護士会が全面協力して設立されたものもあります(その割には合格率が低いが)。弁護士会には法科大学院検討特別委員会なるものもあります。廃止などと言えば気違い扱いされて、村八分にされかねません。しかし法曹養成制度は司法の根幹に関わるものですから「過ちて改むるに憚る事なかれ」の姿勢で再検討すべきだと思います。

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