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2009年6月11日 (木)

科学と刑事裁判 足利事件と北陵クリニック事件について思う

 足利再審請求事件で菅家さんが釈放されました。女児の着衣に付着していた体液とDNAが一致しないとの再鑑定結果が出たためです。足利事件は最高裁が初めてDNA鑑定の証拠能力を認めた事件だったはずですが、実は当時から旧DNA鑑定にはその信頼性の低さから証拠能力に疑問が呈されていました。実際当時の旧DNA鑑定の精度は1000~数千人に1人程度の同一性しか判断できないもので決定的証拠とは言い難いものでした。裁判官の科学に対する知識は大学入試程度のもので、司法試験に合格後も科学捜査についての教育などは行われません。ですから証拠として提出される鑑定書を読み解く能力があるわけではありません。そこで「専門化である○○○が○○としており、鑑定の手法に特段疑問な点はないので」などとして鑑定結果に盲従する判決が出てしまうことになります。そして裁判所はいったん下した結論はなかなか見直そうとはしません。足利事件でもこれまで何度も再鑑定の申請がされましたが、裁判所はことごとく退けました。今回ようやく再鑑定が実施され、やってみたら違うという結論になったのです。再鑑定をしなかった裁判官には旧DNA鑑定と現在のDNA鑑定では精度が全く異なることが理解できなかった(理解しようとしなかった)のでしょう。
 足利事件では証拠品が保存されていて再鑑定することができました。そして本当の科学は嘘をつきませんのでこのような結果になったのです。しかし北陵クリニック事件(守大介冤罪事件)ではベクロニウム(筋弛緩剤)が検出されたとされる点滴ボトルや被害者の血清は、科警研の鑑定の過程で全量消費され、再鑑定ができません。全量消費しなくともごく微量で鑑定は可能なのに、全く不自然な全量消費がされています(鑑定で消費したのではなく単に廃棄したのだと思います)。ちなみに科警研の鑑定は、裁判手続きとして行われる鑑定ではありません。被告が争えば本来裁判所による正式鑑定がなされるべきものなのです。弁護団は再鑑定を不可能にする全量消費は違法であり、その結果である鑑定は証拠能力を有しないと主張しましたが、最高裁を含めて裁判所は一顧だにしませんでした。
 そもそも北陵クリニック事件で科警研が使った質量分析装置は、未知試料を測定する装置ではなく、精密質量の測定(分子の特定)ができないものだったのです。またベクロニウムの質量分析を行うと、必ずm/z557のイオンが検出されますが本件では標品(標準試料)からも鑑定試料からもそれが検出されていません。鑑定資料は既に存在しませんが標準試料はいくらでもあるので、科警研が行った方法では標準試料からですらm/z557のイオンが検出されないことが証明されれば鑑定の信用性は根底から覆ることになります。そこで弁護団は控訴審からこの点を証明するための鑑定を申請しましたが、控訴審も最高裁も採用しませんでした。おそらくこの鑑定の意味すら理解できなかったのでしょう。
 もちろん科学の素人である裁判官が理解できないのは当然のことなのですが、理解できない場合は、「本鑑定は専門家によって行われその者は本件に関して十分な知識と経験を有しており」などといって逃げるのではなく、自ら主体的に裁判所による鑑定を実施して理解する努力をすべきです。証明可能だから科学なのであって、科学的に正しいことは専門家の助力を得て勉強すれば必ず理解できるのです。
 プロの裁判官ですらこうなのですから、裁判員制度の下で科学鑑定の信用性が争点となった場合正しい判断がなされるのか甚だ疑問です。裁判員制度の下では従来の鑑定書は裁判員には分かりにくいので簡略化されるようです。しかし簡略化と分かりやすさは全く違うのであって、それは誤った発想です。理解するためには前提となる知見も含めて従来よりさらに詳細なものが必要なはずです。
 鑑定は専門家によって行われるものですから、素人である我々法律家はそれを鵜呑みにしがいがちです。そして鑑定は正しいとの前提で他の証拠を評価しますから、もし鑑定自体が誤っている場合には証拠を色眼鏡で見てしまうことになるのです。ですから刑事でも、民事でも鑑定の評価には慎重でなくてはならないと思います。また再鑑定しうるように鑑定試料は可能な限り長期間の保存が法律で義務づけられるべきです。それから裁判所独自の科学鑑定の施設を設けるか、少なくとも民間の施設との間で協定を結んで必要なときに必要な鑑定が実施できるようにするべきです。裁判所が被告人側からの鑑定申請を認めないのは、捜査機関と異なり科警研のような自らの鑑定施設を有していないことも大きな理由だと思われるからです。

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