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2010年5月19日 (水)

日弁連の新規登録弁護士研修ガイドラインについて

 全員協議会の事前配付資料に、日弁連が制定した「新規登録弁護士研修ガイドライン」という文書があった。平成11年に制定され、平成21年6月一部改正(正副会長会承認)とある。このようなガイドラインがあること自体初めて知ったが、その内容を見て驚いた。そこには、3実施時期として「このガイドライン(改正)は平成21年9月から実施する。」、4義務化として「(1)各弁護士会において、会則に新規登録弁護士に対する『研修義務』及び新規登録弁護士を雇用する弁護士に対する『研修協力義務』を定める。(2)義務化の程度①必修項目については義務化する。義務違反者に対しては勧告制度を設け、正当な理由なく勧告に従わない場合については懲戒対象とすることができる。②選択項目については努力義務とする。」と記載されている。
 日弁連にはガイドラインという形式で各単位会に会則制定を命じる権限があるのだろうか。弁護士法45条2項は「日本弁護士連合会は・・・弁護士会の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。」とし、日弁連会則も3条で同様の規定を設けている。同会則31条は、各単位会が会則を制定、変更した場合の日弁連への報告義務を定めている。日弁連が各単位会に会則制定を命じる明示の根拠規定はない。そして31条が特に報告義務を定めていることからすれば、3条の「指導」「監督」に根拠を求めることはできないというべきだ。結論として日弁連にはそのような権限はないと思う。
 では「ガイドライン」とはどのような効力を有するものなのか。日本語に直せば指針だが、日弁連がどのような場合にどのような機関決定をもって指針を定めることができるのか、どのような効力を持つのかについては会則上規定はないようだ。結局3条の「指導」「監督」に根拠を求めることになるのだろう。となると結論としては単位会にはガイドラインを尊重する義務はあっても、従う法的義務はないということになる。本ガイドラインでも冒頭で「各弁護士会においてはこのガイドラインを指針として新規登録弁護士研修を実施するに当たって、それぞれの弁護士会の実情に応じて柔軟かつ自主的な運用がなされるべきであり」と書かれているから強制はしないということなのだろう(本来強制する権限などないのだから当然だが)。
 しかし強制力がないから自由にどんなガイドラインを作ってもよいということではないはずだ。単位弁護士会は弁護士法31条に基づいて設立される独立した法人であって日弁連の下部機関ではない。弁護士法が日弁連に単位会に対する指揮命令権を与えていない以上、両者の関係は指導監督は受けつつも対等であり、上命下服の関係にはない。それがたかだか「正副会長会」が、単位会の自主規範である会則の制定を内容とするガイドラインを作ることなど許されるのだろうか。少なくとも単位会への意見照会を経て、理事会決議をもって改正が行われるべきだろう。日弁連は、日弁連会長副会長は会社の社長、副社長で、単位会は支店に過ぎないと考えているのだろうか。強制力がないといっても、ここまで詳細なガイドラインを作られてしまうと、実際上はガイドライン通りの会則が単位会で作られることになる。社長副社長から右を向けと言われれば支店長は右を向かざるを得ないだろう。
 このガイドラインには「新規登録弁護士が、これから責任ある立場の法曹実務家として独り立ちして行くにあたって、登録当初に最低限習得しておくべき項目についての研修指針を定めるものである」と書かれている。弁護士法3条は「弁護士は訴訟事件その他一般の法律事務を行うことを職務とする」とし、同法4条は「司法修習生の修習を終えたものは弁護士となる資格を有する」と定める。責任ある立場の法曹実務家として独り立ちして行けるだけの修習を終えたからこそ、無限定の法律事務を行える資格を付与されるのである。そうでなければ修習を終えさせてはならないというのが弁護士法の趣旨であろう。弁護士法はそもそも研修を義務づけなければならないような者に弁護士資格を与えることは予定していない。だからこそ日弁連が出来て60年間研修の義務づけなどはされてこなかったのだ。
 新規登録弁護士研修の義務化は、無謀な弁護士増員と無定見な司法修習の短縮の尻拭いであり、弁護士会は弁護士の質の維持に努めていますよという世間向けのポーズに過ぎない。ここまで新規登録弁護士を半人前扱いするのならいっそ正面から弁護士補の制度でも導入すべきだろう。私は、現在の新規登録弁護士が研修を義務づけなければならないほど能力が低下しているなどとは思わない。仮に増員・司法修習短縮前と比較して能力低下が見られるのであれば、むしろ正面から合格者数減と司法修習期間の延長を求めるべきだろう。それをしないでおいて新規登録弁護士研修の義務化でお茶を濁そうなどという発想をするべきではない。
 日弁連会則12条は「弁護士は法律学その他必要な学術の研究に努めるとともに、たえず人格を錬磨し、強き責任感と高き気品を保たなければならない」とし同15条は「弁護士の本質は、自由であり、権力や物質に左右されてはならない」と定める。バッチを付けたその時から弁護士の職責を果たせるよう自己研鑽に励むのは当然のことであるが、それは決して他人から強制される筋合いのものではない。新入会員は弁護士会の新入社員ではない。自由で独立したプロフェッションなのであって、そのような存在の者に対して懲戒までちらつかせて研修を義務づけるがごときは思い上がりも甚だしい。私は会員相互が権利義務において平等であり対等であることは弁護士会にとって絶対の原則だと思っている。新規登録弁護士に対し十分な研修の機会を保障すべきは当然だと思うが、義務化は弁護士の本質と相容れない。たかが新規登録弁護士研修の義務化なのに大げさだと言われそうだがそうではない。必要なのだから義務化して何の文句がある、有用なんだから義務化するのは当然だという風潮に一旦なってしまうと歯止めが利かなくなる。弁護士の自由と独立は権力に対してだけではなく、日弁連、単位会との関係でも保障されなければならないと思う。
 残念ながら仙台会も日弁連のガイドライン通りの会則を制定するようだ。日弁連に言われれば何でもやる、日弁連株式会社○○支店という風潮のなか、せめて仙台会だけでも根性を見せて欲しいと思っていたが残念だ。

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