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2010年7月19日 (月)

医療過誤と交通事故で二重請求した弁護士が懲戒処分

3月18日 読売新聞
  川越市内で2004年に起きた交通事故の損害賠償請求を巡り、医療過誤と事故の賠償金を二重に請求し、実際の損害以上の額を受け取ったとして、担当弁護士が所属する東京弁護士会から業務停止6か月の懲戒処分を受けていたことが17日、分かった。弁護士は病院側から示談金が支払われたことを伏せたまま、加害者側からも賠償金を受け取っており、同弁護士会は「詐欺と訴えられてもおかしくないケース」としている処分を受けたのは、東京都内の弁護士事務所に勤める中西義徳弁護士(58)。処分は12日付。同弁護士会などによると、事故は04年1月5日、川越市内の市道で発生。乗用車同士が衝突し、被害者の男性(当時60歳)が搬送先の埼玉医科大学総合医療センターで死亡した。
 遺族から弁護を依頼された中西弁護士は同年6月、「医療過誤により死亡に至った」として病院側に約1億500万円の損害賠償を請求。協議の結果、病院側が「解決金」として6600万円を支払うことで示談が成立した。遺族側は06年12月、加害男性に対しても約1億100万円の損害賠償を求めて提訴。業務上過失致死罪で加害男性の実刑判決が確定した後、9000万円の支払いで和解した。中西弁護士は訴状に解決金のことを明記せず、裁判でも伏せていた。しかし、加害男性も事故で重傷を負って同じ病院に搬送されていたため、医師が二重請求に気付き、同弁護士会に懲戒請求を申し立てた。
  同弁護士会綱紀委員会は昨年7月、「遺族側が受け取った金額は、発生した損害以上の額」と指摘。その上で「解決金は医療過誤の損害賠償金と言える。裁判で解決金に言及しなかったのは極めて問題」として、懲戒委員会での審査を求める決定をしていた。処分について、同弁護士会の黒岩哲彦副会長は「詐欺と訴えられてもおかしくないケース。極めて重い処分」としている。中西弁護士は、同弁護士会に対し、「病院側から受領したのは解決金名目の慰謝料で損害は含まれていない。裁判では病院側との示談は問題とされておらず、言及しなかった」などと説明したという。読売新聞の取材に対しては「自分の考えは弁護士会に伝えてある。処分は不服であり、審査請求する予定」と話している。懲戒請求を申し立てた医師は「病院の医療過誤は公にされないことが多い。弁護士が悪用すれば、このような二重請求は、ほかでも起こりうるのではないか」と指摘している。

  医療過誤と交通事故が競合した場合には共同不法行為となり、被害者は病院と交通事故の加害者のいずれに対しても損害額全額について損害賠償請求ができる。しかしもちろん二重取りはできない。仮に中西弁護士が1億5500万円が妥当な損害額だと考えて訴状に損害額1億5500万円と記載した上で、内金請求として9000万円を請求したのなら問題ない。しかし本件では病院に対して1億500万円、加害男性に対しては1億100万円を請求しているとされているので中西弁護士はその程度の金額が妥当な損害額と判断したのだろう。にもかかわらず合計1億5500万円を受領したのだから二重請求、二重受領だ。この場合裁判上の和解は錯誤により無効となり、加害男性は少なくとも6600万円は不当利得として返還請求できることになる。
  懲戒請求を申し立てた医師は、中西弁護士を詐欺罪で刑事告発しているようだが詐欺罪が成立する可能性は高いだろう。同弁護士会の黒岩哲彦副会長は「詐欺と訴えられてもおかしくないケース。極めて重い処分」と述べているようだが、本当に極めて重い処分だろうか?もし詐欺罪が成立すると考えているなら金額の大きさから考えて業務停止6ヶ月はむしろ軽いのではないか。
  懲戒請求した医師は「弁護士会の懲戒処分制度は医療界が手本とすべきものではないという印象を強く持ちました。透明性の観点からは懲戒請求者である私には弁護士会の委員会においていかなる議論が交わされたのか全く分からない不透明なものにしか見えませんでした。また迅速性の観点からも適正とは言えな いでしょう。さらには調査の範囲に関しても非常に限定的で、弁護士会の綱紀委員会、懲戒委員会ともA弁護士しか委員会に呼んで話を聞いておりません。最大の問題点は、再発防止に関しては何の議論もされていない点です。そもそも、弁護士会には組織として再発防止対策を考えるという精神そのものが欠如しているのではな いでしょうか。懲戒請求書の中で私が弁護士会に指摘したことは、交通事故と医療事故が同一事例で起きた時、各々の損害賠償請求を別々に独立して行うと、今回の場合と同様に 、損害賠償金の二重請求が論理的に可能であるという問題提起でした。そして、このような事例は、これまでにも実際に起きているのではないか、という疑いが強くあるのです。」と述べているようです。
  交通事故と医療事故が競合した場合に各々の損害賠償請求を独立して行えるというのは被害者保護が理由であって、そのこと自体は合理的だ。本来は病院が解決金を支払った後に病院の代理人の弁護士が加害男性(実質的には損保)に求償しておくようアドバイスすべきだったのだろう。ただこの医師が言う弁護士会の懲戒制度の「最大の問題点は、再発防止に関しては何の議論もされていない点です。」との指摘はそのとおりだと思う。もちろん懲戒制度自体は再発防止策を検討するという手続きではないが、せっかく調査するのであるから弁護過誤のような場合には別途再発防止策を提言するような手続きが考えられてよいように思う。この医師が「言っていることとやっていることが違う」医療機関に対して医療事故の再発防止を強く求めている以上、弁護士会も弁護過誤防止対策や非行弁護士対策をきちんと行うべきだという主張は正論だ。
  かつては懲戒事例が掲載されることすら例外的だったのに、自由と正義の今月号には9件の懲戒事例が公告された。仙台弁護士会の会員も懲戒されている。その多くは当該弁護士のパーソナリティーの問題と考えられるものだが、顧客の預かり金に手を付けるなど経済的窮乏を動機とするものも見受けられる。今後も弁護士人口激増は続くので懲戒件数は増加の一途を辿るだろう。司法改革の唯一の成果は「非行弁護士の横行と弁護士に対する信頼喪失だった」と言われる日も遠くないような気がする。 

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