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2010年8月の1件の記事

2010年8月18日 (水)

法科大学院の実質競争倍率は1.91倍 弁護士という職業は学生から見放されつつあるようだ

 文部科学省の資料を基に総務省が作成した「法科大学院の定員及び入学者数等の推移」によると、法科大学院の競争倍率(受験者数/合格者数)は2.75倍とされている。私はこれが正しい数字であり最低限の競争率は確保されているのかなと思っていた。しかし資料をよく読むと受験者数、合格者数共に複数の法科大学院を受験(合格)した者を含んでいる。どうりで合格者数が定員の倍近くいるはずだ。
 法
科大学院を受験するには適性試験(大学入試センター試験)を受験しなければならない。従って適性試験の受験者数=法科大学院の受験者数と考えてよい。つまり実際の競争倍率は法科大学院適性試験受験者数/入学者数で算出されることになる。この適性試験の出願者数の推移は以下の通り。

 平成15 年39,866人

 平成16 年24,036人(-39.7%)

 平成17 年19,859人(-17.4%)

 平成18 年18,450人(-7.1%)

 平成19 年15,937人(-15.1%)

 平成20 年13,138人(-17.6%)

 平成21 年10,282人(-21.7%)

 平成22 年 8,650人(-15.9%)
 ( )は前年比

 上記は出願者数だが実際の受験者数は平成22年で7898人だ。平成22年度入学者数は4122人だから競争倍率は1.91倍になる。ちなみに平成15年度の入学者数は5767人だから競争倍率は6.91倍だ。

 司法試験の合格率は平成21年度で27.6%だからロースクールに入ったからといって合格できるわけではないが、ロースクールの競争倍率がこれだけ低いと司法試験自体の競争性が保ち得ないのではなかろうか。

 ロースクールは大学を出てさえいれば受験資格がある。受験者の中には優秀な学生もいればそうでない者も当然いる。ロースクールの受験者数が激減しているのは一目瞭然だが、成績の悪い者だけが減っていると見ることはできないので、法曹界にとって望ましい優秀な学生の受験者数も激減していると見るべきだろう。その結果ボンクラ学生を含めた受験者の二人に一人は合格できる試験になってしまった。それどころか上記推移を見ると減少傾向に全く歯止めがかかっていないので、早晩ロースクールは全入時代がくることになる。

 上記推移から客観的に見ればロースクールの学生の質が大幅に低下しつつあると言って間違いはないと思う。従前新司法試験ではロースクール卒業者の7~8割が合格できるようにすると言われていたが、それはロースクール生の質が確保されることを前提にしていたのであって、現状ではとんでもない。合格率27.6%だって高すぎるくらいだ。

 別に私はロースクール生の悪口を言いたいわけではない。志を持って一生懸命勉強しているのであるから司法試験に合格して立派な法曹になって欲しいと思う。しかしそのような感情は抜きに現状を分析する必要があると思う。ロースクール卒業が司法試験受験資格になっているのにその受験者数が激減しているということは、取りも直さず学生が法曹という資格に魅力を感じなくなっているということを意味している。その原因はロースクール卒業に金がかかるということもあろうが、医師だって医学部は6年だから経済的負担に差異はないのであるからそれだけで説明できるものではない。賢明な学生は、合格者3000人などという馬鹿げた大増員をすればいずれ職業として立ち行かなくなることは目に見えているとの危惧感を抱いたのだと思う。それに加えて新人弁護士の就職難、給与の減少などが徐々にマスコミによって報道されるようになり、この危惧感が現実化していることに学生は敏感に反応したのだろう。

 学生が、困っている人を助けたい、社会正義の実現に寄与したいとの思いを抱いて法曹を目指すのは今も昔も変わらないと思う。しかしそのような思いだけで生涯の進路を決められるほど人間は単純ではない。地位や名誉も欲しい、金も欲しい、金持ちでなくともせめて安定した収入は確保したい、難しい資格だからこそ挑戦したい、そう考えるのは当然のことだ。学生がそのような願望を満たす(可能性のある)職業を目指すのは当たり前の選択だ。今の法曹界は学生からそのような職業だとは見なされなくなりつつあるということだろう。

 現在の弁護士の状況はまだ余裕があると言える。過払いバブルはまだ続いているし、新人弁護士の就職難も今はまだ辛うじて一般学生と大差ないレベルにとどまっている。しかし今のような弁護士増員を続けていては、いずれは弁護士を職業としていては食べていけない時代が来る。現状ですら受験者が激減しているのだから、そうなったらロースクールなど誰も見向きもしなくなるだろう。

 弁護士という職業自体が学生から見放されつつあるというのに、弁護士会では未だに「弁護士が食えなくなるなどと言うべきではない、増員見直しは世間が許さない、司法改革の理念を曲げてはならない、世論を味方に付けないと見直しなどできない、市民の求める弁護士像は何か」などという議論が繰り返されている。食いつめたボンクラ弁護士が日本の津々浦々に居たところで百害あって一利なしだ。そんなものは社会生活上の医師でも何でもない。

 医者だって年間合格者は7000~8000人台だ。一生の間に病院に100回行く者はそんなに珍しくない、むしろそのくらいは普通だろう。しかし弁護士の所に行くのはそれこそ一生に1回あるかないかというのが普通だろう。弁護士については従前500人だった合格者数を3000人にすることが閣議決定されている。医師については弁護士とは比較にならないほど医師不足が叫ばれている。では医師国家試験の年間合格者数を従前の6倍の4万5000人に増やしたらどうなるのだろう。僅か4年間増やしただけで医師の数は現在の28万人に18万人が加わり46万人になる。「医師と名のつく者の数」の不足は完全に解消する。ではそれで国民の健康が護られるのだろうか。医学部は偏差値の高い高校生を集め、6年間の教育を施し、さらに研修医として研鑽を積ませている。それだからこそ現在の医療水準を保ち得ているのである。医師という名が付けばその技量は問わない、医師としての資質も持たずろくな教育も受けていない者であっても医師と名が付けば治療を受けたいなどと思う者はいないだろう。指導する先輩医師がいないぺいぺいばかりの病院に誰が行こうと思うだろうか。今行われている弁護士激増政策は正にそれをやっているのである。専門家の養成はそんな簡単なものではない。医師や弁護士という名前さえ付いていればそれでよいのだと国民が考えているなら何も言わないがそうではないはずだ。

 もう手遅れかもしれないが、弁護士という職業自体の存立が危なくなっているという危機意識を持って法曹養成制度と司法試験の在り方を再検討すべきだろう。

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