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2011年5月 2日 (月)

福島原発事故と東電の損害賠償責任 原子力損害賠償紛争審査会の監視を

  今回の原発事故と東電の損害賠償責任については必ずしも正確な報道がなされていないように思われる。
  原子力発電など原子力施設の運転中に発生した事故により原子力損害を受けた被害者を救済するため、1961年に原子力損害賠償法(以下単に法という)が制定された。要点は次の通り。

  • 原子力災害は、異常に巨大な天災地変や社会的動乱の場合を除いて、原子力事業者に損害賠償の責任がある。
  • 原子力事業者に無過失・無限の賠償責任を課す。
  • 賠償責任の履行を確実にするため、電力会社は「原子力損害賠償責任保険」を保険会社と結び、また、国と「原子力損害賠償補償契約」を結ぶ(通常の商業規模の原子炉の場合の賠償措置額は現在1200億円)。
  • 賠償措置額を超える原子力損害が発生した場合に、国が原子力事業者に必要な援助を行う。

  つまり原子力事業者は、原子炉の運転等により「原子力損害」を与えたときは、過失がなくともその全損害を賠償する責任がある。法2条2項で「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいうと定義されている。従って、損害賠償を受けられるかどうかは全てこの定義に当てはまるかどうかで決まることになる。
  1200億円というのはあくまで保険会社及び国の責任限度額(今回は正常運転によるものではなく津波によるものだから保険会社は免責)であって東電の責任限度額ではない。
  原子力事業者は無過失・無限の賠償責任を負うが、唯一の例外として法第3条但し書きは「損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるとき」には免責するとしている。東電や財界の一部は但し書きの適用を望んでいるようだが、現時点で政府は本件事故はこの但し書きには該当しないという見解をとっている。マグニチュード9の地震は日本における観測史上初めてであるが、それはあくまで100年にも満たない観測史上の話であって、実際に869年の貞観地震(津波)では内陸深くまで津波が侵入している。既に2001年には「津波堆積物の周期性と堆積物年代測定結果から、津波による海水の溯上が800年から1100年に1度発生していると 推定されました。貞観津波の襲来から既に1100年余の時が経ており、津波による堆積作用の周期性を考慮するならば、 仙台湾沖で巨大な津波が発生する可能性が懸念されます」との報告がなされている。「異常に巨大な天災地変」とは免責規定を設けた趣旨からすれば「原子力事業者が損害発生を防止することが不可能と考えられる程の異常に巨大な天災地変」と解釈すべきだが、実際に宮城県の女川原発は事故を免れており、本件津波がこれに当たるとすべきではない。従って東電が責任を免れる余地はない
  そして3条但し書きが適用されない以上、国には原子力損害賠償法上の賠償責任はない。法第16条の「原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする」との援助規定が問題になるだけだ。国には東電が賠償できるよう援助する義務はあっても賠償を肩代わりする義務はない。義務がないというより法が原子力事業者に責任を集中させている趣旨からすれば肩代わりしてはならないと解釈すべきだろう。援助の仕方によっては事実上国が税金で東電の賠償を肩代わりすることになりかねないので、そのようなことが行われないよう国会と国民は厳しく政府を監視する必要がある。
  具体的な原子力損害の範囲は、法2条2項の「・・・により生じた損害」の解釈問題となる。これについては法令には具体的な定めはない。そして原子力損害賠償法は民法の特則と考えられているので、この問題は民法の因果関係についての解釈によることになる。しかし民法にも具体的規定があるわけではなく、事故との「相当因果関係」が認められるかどうかで判断される。相当因果関係についての一般的解釈は、「社会通念上相当と認められる範囲」にあるか否かとされている。つまり社会通念上核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じたか否かで決められることになる。従って避難勧告地域であるか否か、屋外退避勧告地域であるか否かは無関係であり、30キロ以上離れた地域の住民や事業者であっても因果関係が認められる限り賠償を受けることができる。例えば放射能汚染が酷い地域は今後居住が困難だとして不動産の時価(事故前の価格)相当額が賠償の対象となる。風評被害についても少なくとも福島県産の農作物、海産物は全て賠償の対象とすべきだろう。
  この点法18条は、「原子力損害賠償紛争審査会を置くことができる。2  審査会は、次に掲げる事務を処理する。「原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること」と規定する。しかし審査会の権限はあくまで「原子力損害の範囲の判定の指針」を決めることであって、具体的な認定をする権限はない。従って東電が原子力損害と認めない場合には、最終的には裁判所が判断することになる。
  そうは言っても審査会が今後示すであろう「原子力損害の範囲の判定の指針」は裁判所の判断に大きく影響し、おそらくそれに反する独自の判決を書くことは困難と思われる。従ってこの指針の決め方によって被害救済の範囲が事実上決まってしまうであろう。審査会の委員は以下のとおり。
 大塚直・早大大学院法務研究科教授
 鎌田薫・早大総長(法務研究科教授)
 草間朋子・大分県立看護科学大学学長
 高橋滋・一橋大大学院法学研究科教授
 田中俊一・(財)高度情報科学技術研究機構会長
 中島肇・桐蔭横浜大法科大学院教授(弁護士)
 能見善久・学習院大法務研究科教授
 野村豊弘・学習院大法学部法学科教授
 山下俊一・長崎大大学院医歯薬総合研究科研究科長
 米倉義晴・放射線医学総合研究所理事長
  法律の専門家が過半数を占めるが、法律実務家があまり入っていないのは気掛かりだ。国の財政負担軽減の理由で不当に賠償の範囲が狭められることのないよう審査の状況を監視して行く必要がある。審査会が公開されるかは不明だが、非公開であっても議事録は速やかに公開されるべきだ。また指針を決める前に国民にパブリックコメントを求めるべきだろう。間違っても東電や東電の意を受けた経産省官僚の暗躍を許してはならない。
  また最終的な指針の策定にはかなりの時間を要すると考えられるので、少なくとも原子力損害であることが確実視される類型を定めて東電に仮払いを勧告する暫定指針を策定すべきだろう。
  平成11年9月30日に発生した株式会社ジェー・シー・オー(JCO)東海事業所転換試験棟における臨界事故について、科学技術庁の「原子力損害調査研究会」は平成12年3月29日に最終報告書がとりまとめた。その内容は後記のとおり極めて不十分であり、今回はより広範な被害救済を可能とする「原子力損害の範囲の判定の指針」が策定されるべきだ。

原子力損害賠償法の関係条文
第二条  
  この法律において「原子力損害」とは、核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し、又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう。
(無過失責任、責任の集中等) 
第三条  原子炉の運転等の際、当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは、当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によつて生じたものであるときは、この限りでない。
第六条  原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置(以下「損害賠償措置」という。)を講じていなければ、原子炉の運転等をしてはならない。
第七条  損害賠償措置は、次条の規定の適用がある場合を除き、原子力損害賠償責任保険契約及び原子力損害賠償補償契約の締結若しくは供託であつて、その措置により、一工場若しくは一事業所当たり若しくは一原子力船当たり千二百億円。
第十条  原子力損害賠償補償契約(以下「補償契約」という。)は、原子力事業者の原子力損害の賠償の責任が発生した場合において、責任保険契約その他の原子力損害を賠償するための措置によつてはうめることができない原子力損害を原子力事業者が賠償することにより生ずる損失を政府が補償することを約し、原子力事業者が補償料を納付することを約する契約とする。
第十六条  政府は、原子力損害が生じた場合において、原子力事業者が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ、かつ、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、原子力事業者に対し、原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。
  前項の援助は、国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。
第十七条  政府は、第三条第一項ただし書の場合又は第七条の二第二項の原子力損害で同項に規定する額をこえると認められるものが生じた場合においては、被災者の救助及び被害の拡大の防止のため必要な措置を講ずるようにするものとする。
第十八条  文部科学省に、原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介及び当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定に係る事務を行わせるため、政令の定めるところにより、原子力損害賠償紛争審査会(以下この条において「審査会」という。)を置くことができる。
  審査会は、次に掲げる事務を処理する。
  原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと。
  原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること。
  前二号に掲げる事務を行うため必要な原子力損害の調査及び評価を行うこと。
(参考)ジェー・シー・オー(JCO)東海事業所臨界事故についての最終報告書
  平成11年9月30日に発生した株式会社ジェー・シー・オー(JCO)東海事業所転換試験棟における臨界事故について、科学技術庁は10月27日、「原子力損害調査研究会」(研究会)を開催することとし、平成12年3月29日に最終報告書がとりまとめられた。報告書には、「JCOと請求者側との話し合いや、日本原子力保険プールによる保険金支払にあたって一つの指針を与えるものとなろう。さらに、訴訟等にその解決が委ねられることとなった場合においても、本書が一つの重要な判断材料となることが期待される。」と書かれている。
  原子力損害についての現時点における唯一の行政指針だが、精神的損害を原則として認めないこと、売却予定のない所有不動産の価値が下落したことを理由とする請求について現実の損害発生を認めないこと、営業損害の範囲が限定的であることなど極めて問題の多い報告書になっている。屁理屈つけて賠償金を値切ることが何と簡単なことか。その後の裁判例もこの報告書の考え方と五十歩百歩だが、このような考え方で福島原発事故の賠償指針が決められたのではたまらない。現在原子力損害賠償審査会が福島原発事故についての損害賠償指針を検討しているが、被害者の目線で常識にかなった指針が作られることが期待される。

原子力損害調査研究会最終報告書
1[身体の傷害]
(指針)
 請求者の身体における傷害が、請求者側の立証により、本件事故によって放出された放射線又は放射性核種による放射線障害(急性放射線障害又は晩発性放射線障害)であると認められる場合には、当該請求者が被った損害は賠償の対象と認められる。
(備考)
 1)  JCOの作業員3名について、本件事故により放出された放射線又は放射性核種による急性放射線障害である旨が確認されており、同人らが被った損害は賠償の対象と認められる。なお、これらの作業員3名に対する原賠法(第3条第1項)に基づく賠償は、同法附則第4条により、労働者災害補償保険法に基づく保険給付分を控除した残部となる。
 2)  原子力安全委員会健康管理検討委員会の検討によると、JCOの周辺住民等に対する本件事故の放射線影響は、いわゆる確定的影響(ガン及び遺伝的影響以外の影響)が発生するレベルではないうえ、いわゆる確率的影響(ガン及び遺伝的影響)についても発生の可能性が極めて低いと考えられるものとされている。
 したがって、作業員3名以外の者からの放射線の作用等による身体の傷害を理由とする請求については、当該請求者の側から、本件事故により放出された放射線又は放射性核種による放射線障害であることが立証された場合に限り、その損害の賠償が認められるべきである。

2[検査費用(人)]
(指針)
 本件事故の発生(平成11年9月30日午前10時35分)から避難要請の解除(同年10月2日午後6時30分)までの間のいずれかの時点に茨城県内に居た者(通過した者も含む。)が、身体の傷害の有無を確認する目的で、平成11年11月末までに受けた検査につき検査費用を支出した場合には、請求者の損害と認められる。
(備考)
 1)  放射線及び放射性核種は、その量によっては人体に多大な負の影響を及ぼす危険性があるうえ、人の五感の作用では知覚できないという性質を有している。それゆえ、本件事故の発生により、上記の時間帯のうちいずれかの時点で茨城県内に居た者が、自らの身体に放射線障害が生じたのではないかとの不安感を抱き、この不安感を払拭するために検査を受けることは無理からぬ行動である。
 ところで、後記7「営業損害」の項で述べるように、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13日、14日)等において正確な情報が提供さ、これが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当な期間が経過したのは、同年11月末と認められる。したがってこれまでの間に住民が受けた1回目の検査のための費用は本件事故による損害と認められる。さらに、上記基準に該当する者が同種の医学的検査を2回以上受けた場合においては、請求者の側で2回目以降の医学的検査を受ける必要性があったことを立証した場合には、2回目以降の検査のための費用も請求者の損害と認められる。
 2)  無料の医学的検査を受けた場合の検査費用については、請求者に実損が生じておらず、損害とは認められない。

3[避難費用]
(指針)
 請求者が現実に支払った以下の実費分が、損害と認められる。
 I)  屋内退避勧告がなされた区域内に居住する者が、避難するため現実に支出した交通費、行政措置の解除(平成11年10月2日)までに現実に支出した宿泊費及びこの宿泊に付随して支出した費用。
 II)  上記区域内に住居を有している者が、屋内退避勧告がなされた区域外に滞在することを余儀なくされた場合には、現実に支出した宿泊費及びこの宿泊に付随して支出した費用。
(備考)
 1)  行政当局は、JCOからの距離等に応じて避難要請及び屋内退避勧告をそれぞれ行っている。この行政措置によって避難を余儀なくされたのは、厳密にいえば避難要請のなされた区域内に居住する者だけであり、これを超えた区域内に居住する者は避難の対象とされなかった。
 しかしながら、屋内退避勧告の対象となった区域の居住者らについて、その区域外に避難する行動に出たことや、屋内退避勧告がなされた時点で屋内退避勧告がなされた区域外に居た右区域内の居住者らが、この区域内の住居等に戻ることを差し控える行動に出たことについては、これらの行動に及んだことも無理からぬものと認められる。
 したがって、屋内退避勧告がなされた区域内の居住者らが現実に支出した避難費用(交通費、宿泊費及びこの宿泊に付随して支出した雑費)についても、賠償の対象とするのが妥当である。
 2)  但し、上記の指針により損害と認められる避難費用であっても、その賠償額は合理的・平均的な範囲内のものに限られ、過度に遠方に避難した場合や著しく高額な施設に宿泊した場合の損害額は、出捐額の全額ではなく、合理的・平均的な範囲に減縮された額とされるべきである。

4[検査費用(物)]
(指針)
 当該財物が本件事故の発生当時茨城県内にあり、当該財物の性質等から、検査を実施して安全を確認することが必要かつ合理的であり又は取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされたものと認められ、平成11年11月末までに検査を実施した場合には、請求者が現実に支払った検査費用は損害と認められる。
(備考)
 1)  科学技術庁が実施した調査によると、本件事故により放出された放射線又は放射性核種は、財物汚染又は財物汚損をもたらす程度の量(科学的に有意な量)ではなかったものと認められる。しかしながら、財物の価値ないし価格が、当該財物の取引等を行う人の印象・意識・認識等の心理的・主観的な要素によって大きな影響を受けることは明らかである。しかも、財物に対して実施する検査は、取引の相手方らによる取引拒絶、キャンセル要求又は減額要求等を未然に防止し、営業損害の拡大を最小限に止めるためにも必要とされる場合が多い。したがって、平均的・一般的な人の認識を基準として、当該財物の種類及び性質等から、その所有者等が当該財物の安全性に対して危惧感を抱き、この危惧感を払拭するために検査を実施することが合理的であると認められる場合又は取引先の要求等により検査の実施を余儀なくされた場合には、現実に支払った検査費用を損害と認めるのが相当である。
 2)  もっとも、当該請求者が出捐した検査費用が損害と認められる場合であっても、その賠償額は合理的な範囲内のものに限られ、たとえば複数の機関のもとで重複検査を行った場合や、国内で行えるにもかかわらず海外の検査機関で検査を実施した場合には、請求者の側でその必要性を立証しない限り、賠償すべき損害について請求額の全額ではなく合理的な金額にまで減縮されるべきである。

5[財物汚損]
(指針)
 現実に発生した以下のものについては、損害と認められる。
 I)  動産については、当該動産が本件事故の発生当時茨城県内にあり、その種類、性質及び取引態様等から、平均的・一般的な人の認識を基準として、本件事故により当該財物の価値の全部又は一部が失われたものと認められる場合には、現実に価値を喪失し又は減少した部分について損害と認められる。
 II)  不動産については、
i)売却予定のない所有不動産の価値が下落したことを理由とする請求については、現実の損害発生を認めることはできず、賠償の対象とは認められない。
ii)不動産売買契約の解約、不動産を担保とする融資の拒絶又は売却予定価格の値下げを理由とする請求については、請求者の側が、当該不動産が屋内退避勧告のなされた区域内にあること、その不動産取引について既に売買契約等が締結されているか締結の可能性が極めて高い状況であり、対価額等も確定しているか確定しつつあること、平成11年11月末までに生じた解約や値下げであり、これらに応じざるを得なかった相当な事由があったこと、更に解約の場合には当該不動産を緊急に売却処分せざるを得なかった相当な事由があったこと、その解約や値下げが本件事故を理由とするものであること、当該請求の合理性(損害の発生と損害額)を立証した場合には、賠償が認められる余地がある。
iii)賃料の減額を行ったこと又は本件事故後に賃貸借契約を解約されたことを理由とする請求については、請求者の側が、当該賃貸不動産が屋内退避勧告のなされた区域内にあること、現に賃貸借契約が締結されていたこと、平成11年11月末までに賃貸借契約の解約又は賃料の減額がなされ、これらに応じざるを得なかった相当な事由があったこと、賃料の減額又は解約が本件事故を理由とするものであること、当該請求の合理性(損害の発生と損害額)を立証した場合には、賠償が認められる余地がある。
(備考)
 1)  I)については、前記4[検査費用(物)](備考)の1)に同じ。
 2)  II)のi)、ii)については、不動産の特殊性に由来する価格形成過程の複雑さ等にも
十分配慮して、賠償の要否及び範囲を慎重に検討する必要がある。
 不動産の価格は、取引当事者の取得目的等に大きな影響を受けるものであり、これを一義的かつ客観的に把握することが非常に困難であることが多い。不動産の価格は、景気等からも大きな影響を受ける。そして、一般的な動産とは異なり、一度下落した価格が再び上昇することも十分にあり得る。不動産の価格が一時的に下落したとしても、当該不動産が滅失して利用可能性を喪失することはなく、これを廃棄する行動に出ることも考えられない。l   
 3)  II)のii)については、不動産の売却の予定がない以上損害が現実に発生していると
はいえないうえ、仮に価格が一時的に下落したとしても将来回復し又は上昇する可能性があること、本件事故による価値の下落分を一義的かつ客観的に把握できないこと、価格の下落が見られても、不動産自体の利用可能性は些かも失われないこと等からして、賠償の対象とすることは妥当でない。
 II)のii)については、当該価格で売却できることが確定していた又は確定しつつあった状況のもとで、本件事故の発生を理由に当該減額又は解約(合意解約)がなされたこと等の前記各事実を請求者が立証した場合には、賠償が認められる余地がある。これに対して、当該減額又は解約が本件事故の発生を理由とする旨を立証できない場合、当該価格で売却できる状況又は売却できつつある状況にあったことが確定していなかった場合、売却交渉が進行中であったが売買代金額等の売買条件が全く未確定であった場合等では、本件事故に起因する「損害」が発生したものと認めることは極めて困難である。
 II)のiii)についても、本件事故の発生を理由として賃貸借契約を解約又は賃料の減額がなされ、これらに応じざるを得なかった相当な事由があったこと等の前記各事実が請求者によって立証された場合には、営業損害の考え方に準じて相当な期間の減収分について損害と認められる余地がある。
  4)  なお、損害が発生したと認められる場合であっても、賠償すべき損害額の算定にあたっては、損失の公平かつ適正な分担を図る見地から、具体的な事実関係に従って、過失相殺や原因競合等の法理論を適用すべき場合(例えば、その性質から廃棄の必要性が認められない動産を軽率な判断で廃棄してしまった場合など)もあり得る。

6[休業損害]
(指針)
 屋内退避勧告がなされた区域内に居住地又は勤務先がある給与所得者、アルバイト及び日雇労働者について、行政措置により就労が不能となった場合には、就労不能の状況が解消された時点まで(避難要請が解除された平成11年10月2日から合理的期間経過後まで)に生じた給与等の減収が、請求者の損害と認められる。
(備考)
 1)  屋内退避勧告は平成11年10月2日に解除されており、この時点からは就労が可能な状況となっている。しかしながら、一般的・平均的な人の認識を基準とした場合、屋内退避勧告がなされた区域内における法人等の事業者においては、上記の行政措置が解除された後、情報収集と事態把握を行ったうえで徐々に事業活動を再開するとの対応に出ることもあり得、このような対応は必ずしも不合理なものとはいえない。したがって、請求者の損害と認められる休業損害は、行政措置が解除された後、若干の合理的な期間が経過するまでの間に生じたものと認めるのが妥当である。
 2)  本件事故により、所定の期間の事業活動を休止したが、従業員らに対して当該休止期間分の給与等を支払った場合には、当該事業者の出捐額が損害となる。

7[営業損害]
(指針)
 I)  茨城県内で収穫される農畜水産物及びこれらに関連する営業であり、広く茨城県県外を商圏とするものについては、生産あるいは営業の拠点が茨城県内にあり、取引の性質から相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
 II)  上記I)以外の営業については、営業の拠点が屋内退避勧告のなされた区域内にあり、取引の性質から相手方等が取引や利用の拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと認められ、現実に減収のあった取引について、事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までの期間に生じた減収分(売上高から売上原価を控除した売上総利益=粗利益の額)が損害と認められる。
(備考)
 1)  研究会が公表した「中間確認事項―営業損害に対する考え方―」(別添2)で記載したとおり。すなわち、
 (1)少なくとも、
ア) 事故調査対策本部の報告(平成11年11月4日)及び住民説明会(同年11月13,14日)等によって、正確な情報が提供され、かつこれが一般国民に周知されるために必要な合理的かつ相当の時間が経過した時点(同年11月末)までに生じた現実の減収分であること。
イ)屋内退避勧告がなされた区域内のものであること。
ウ)平均的・一般的な人を基準として合理性のあるものであること。
の3点を満たすものについては、特段の反証のない限り、事故との間に相当因果関係があると推認される。
 (2)さらに、上記要素を満たさない場合においても、請求者による個別・具体的な立証の内容及び程度如何では、相当因果関係が肯定される場合がある。
 2)  売上総利益(粗利益)の算定については、当該請求者の決算書類等に基づいて行われることを原則とすべきであるが、大量・迅速処理を行う必要から、必要な範囲で統計的資料を併用することもやむを得ないものと考える。
 3)  なお、損害として認められる場合であっても、賠償すべき損害額の算定にあたっては、損失の公平かつ適正な分担を図る見地から、具体的な事実関係に応じて、過失相殺や原因競合等の法理論を適用すべき場合(例えば、その性質から廃棄の必要性が認められない商品等を軽率な判断で廃棄してしまったために営業活動に支障が生じた場合など)もあり得る。

8[精神的損害]
(指針)
 本件事故において、身体傷害を伴わない精神的苦痛のみを理由とする請求については、損害の発生及び金額の合理性について請求者側に特段の事情がない限り、損害とは認められない。
(備考)
 1)  研究会では、原賠法にいう「原子力損害」に精神的損害(慰謝料)が含まれることについては見解の一致を見た。しかしながら、本件事故における精神的損害のうち身体傷害を伴わない精神的苦痛の申し出に関しては、議論の過程で、賠償の対象とする損害と認められないとする見解と認められる余地があるとする見解が示されたものの、最終的には、請求者側に特段の事情がない限り認められないとする見解が支配的となった。
 2)  身体傷害を伴わない精神的苦痛の有無、態様及び程度等は、当該請求者の年齢、性別、職業、性格、生活環境及び家族構成並びに人生観、世界観及び価値観等の種々の要素によって著しい差異を示すものである点からも、損害の範囲を客観化することには自ずと限界がある。このような性質を有する身体傷害を伴わない精神的苦痛の申し出に対し、仮に一律の基準を定めて賠償の適否を判断しようとする場合には、ともすれば過大請求が認められる余地を残してしまう可能性があるとともに、他の損害項目に対する賠償との間でも不公平をもたらす可能性がある。

平成11年12月15日
原子力損害調査研究会の中間的な確認事項
―営業損害に対する考え方―
(1) 当研究会による調査・検討の対象
 今回の株式会社ジェー・シー・オー(以下「JCO」という)による臨界事故(以下「本件事故」という)の発生後、現在に至るまでの間に、個人及び各種の法人等からJCOに対し、営業損害を含む多様な損害賠償の請求が漸次なされつつある。しかしながら、現在までに請求がなされている営業損害には、原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という)第2条第2項にいう「核燃料物質の原子核分裂の過程の作用」、「核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物の放射線の作用」あるいは「核燃料物質若しくは核燃料物質によって汚染された物の毒性的作用」により生じた人的又は物的損害を伴わないものが多数含まれている。これらの営業損害は、1)営業活動の主体又はその相手方らの放射線ないし放射能(「死の灰」と俗称される放射性核種を含む)に対する著しい危険感・恐怖感、2)マスコミ等によってなされる報道、3)屋内退避要請及び避難勧告をなした行政当局の対応等の諸要素が複合的に作用し、複雑な過程を辿って発生したという大きな特徴がある。このような営業損害は、いわゆる風評損害と評価し得べき側面を有するものである。このような営業損害(以下「本件営業損害」という)が、原賠法第2条第2項にいう「原子力損害」に該たり、同法第3条に基づく損害賠償の対象となるものであるか否かが、当研究会による主要な調査・検討の課題となった。
 当研究会による調査・検討の結果、現在までに意見の統一が図られている事項は、以下の各点である。
(2) 本件営業損害が「原子力損害」に含まれるか否か
(結論)  JCOが惹き起した本件事故との間に相当因果関係が認められる限り、本件営業損害は、原賠法に定める「原子力損害」に含まれる。
(根拠) 1) 核燃料物質の原子核分裂の過程の作用その他の作用によって直接に人的又は物的な損害を被っていない者の営業損害その他の経済損害については、これが原賠法第2条第2項及び第3条にいう「原子力損害」に含まれるとすると、損害賠償の範囲が無限に広がり、被害者救済制度を破綻させるおそれがあるという懸念もありうる。
 しかし、原賠法の立法過程の議論においては、こうした制限的な考え方を採らず、相当因果関係の範囲にある損害をすべて賠償するとの見解が表明されている。また、原賠法は、その目的が「被害者の保護を図り」、もって「原子力事業の健全な発達に資する」ことにあり、いわゆる救済法として位置づけられるところ、特に明文で除外事由とされていない事項について、特段の合理的な根拠がないのに適用範囲を狭める解釈を採るべきではない。原賠法の適用範囲は、同法の存在意義に十分配慮し、「被害者の保護」という立法目的を失わせることのないよう解釈すべきである。
2) いわゆる放射能、放射線あるいは原子力には未だ多くの不可知な領域があることは否定できず、一旦その操作を過った場合には、人体及び物質等に重篤かつ多大な負の影響を及ぼす危険性があることは公知の事実である。特に、我国が世界で唯一の被ばく国であることや、近時、スリーマイル島、チェルノブイリ等での重大な原子力事故の発生が報じられていることなどから、一般国民の放射線、放射能あるいは原子力に対する恐怖感・危険感には特に著しいものがある。加えて、本件事故は、国際評価尺度(INES)でもレベル4とされる放射線事故であり、現実に3名の作業員らについては、極めて重篤な放射線障害が生じているという点で、特殊性がある。また、現時点での調査結果によると、複数の救急隊員ら及び周辺住民の一部にも、人体に影響を与えるほどのレベルでの被ばくはなかったものの、自然環境から受ける以上の放射線被ばくがあったものと考えられている。これらの点から見ても、本件事故は、一般国民(特に、周辺住民、その取引先及び一般消費者等)に対し、著しい恐怖感・危険感を与えたものというべきである。
3) 一般的に、財物の価値の評価や人の購買行動等においては、当該取引に関与する「人」の意識・認識・思惑等の心理的・主観的な要素が、動機づけ、決定付けに重要な役割を果たしている。したがって、「原子力損害」の対象範囲を確定するにあたっては、上記の主観的要素を排除することはできない。
 それゆえ、「原子力損害」の対象範囲を確定するにあたっても、一般国民が本件事故に対して抱く恐怖感・危険感を、全く個人的、主観的で一過性の過剰な心理状態に過ぎず、救済の対象から除外すべきであると捉えるのは妥当でない。
(3) 本件営業損害に関する相当因果関係の判断基準(中間意見)
(結論)
a) 本件のような複雑な過程を辿って形成された営業損害において、どの範囲の損害をもって本件事故と相当因果関係がある損害(通常生ずべき損害)であるかを判断するにあたっては、一定の時間的要素及び場所的要素をもって一応の判断基準とせざるを得ない。
b) 時間的要素及び場所的要素の範囲(限界)を考えるにあたっては、周辺住民における安全認識の浸透度合い、市場における反応の沈静化時期等について調査及び検討を行い、具体的な事実関係を踏まえたうえ、慎重に判断することが必要である。
c) 当研究会としては、時間的要素及び場所的要素について、現時点においては、少なくとも、1)平成11年11月4日、科学技術庁事故調査対策本部が原子力安全委員会に対し「(株)ジェー・シー・オー東海事業所の事故の状況と周辺環境への影響について」と題する報告をなし、同年11月13日、14日には住民説明会も開かれ、マスコミ等の報道を通じてこの内容が一般国民に周知徹底されたと思料されるので、不安感の沈静化の時期(損害賠償の時間的範囲)については少なくとも同年11月一杯程度と考え、2)本件事故の発生場所であるJCO東海事業所転換試験棟から半径10kmの範囲内で生じた営業損害であり、かつ、3)平均的・一般的な人の認識を基準として、当該行為者またはその相手方等が取引拒絶等の行動に及ぶこともやむを得ないものと評価され、現実に減収のあった取引等については、事実上の因果関係があり、特段の反証のない限り、本件事故との間に相当因果関係があると推認すべきものと考える。
d) なお、前述のとおり、上記の判断基準は現時点における暫定的なものであり、今後の調査により判明してくる被害状況の全体像によっては、上記1)の時間的要素及び②の場所的要素の各限界範囲がさらに拡大(10kmを超え、茨城県全体への拡大)される可能性を否定するものではなく、また、上記①の時間的要素又は②の場所的要素のいずれか又は双方を満たさない場合であっても、請求者からの現実の減収等の立証の内容及び程度など個別的・具体的な事情によっては、相当因果関係が肯定される場合があり得ることを付言しておく。
(理由)
1) 時間的要素について
 平成11年10月2日に政府対策本部による農畜産物に関する安全宣言が出されているが、未だこの時点では、本件事故の分析が続けられている状況にあり、周辺住民等が安全であるとの認識を有するに至っていないものと思料される。したがって、この安全宣言がなされた時期を時間的要素の限界とすることは狭きに失する。
 周辺住民らの危険感あるいは市場における動揺がいつの時点で沈静化したのかについては、今後の調査と検討を待つ必要があるが、少なくとも詳細な事実関係が明らかとなっていない現時点では、前記のとおり平成11年11月4日付の報告及び同月13日、14日の地元説明会で沈静化に向けた正確な情報の提供がなされ、かつ、これが一般国民に周知されるために要する合理的かつ相当の時間が経過した時点を基準に、時間的要素の限界を考えざるを得ない。
2) 場所的要素について
 7km地点に設置された空間γ線量を測定するモニタリング・ポストの数値に変動が生じたこと(これを超える地点のモニタリング・ポストでは変動が生じていない。)等を根拠として、茨城県が自宅退避要請をなした範囲であり、判断基準としても客観的で相応の合理性をもったものである。さらに、一般国民の認識は、自宅退避要請がなされた事実につき、「公的機関が放射能の汚染地区と指定したのが10km圏内である」との解釈を与え、この範囲にある者との取引活動等を差し控える行動に出た可能性も認められる。したがって、周辺住民らの危険感あるいは市場における動揺がどの領域で発生したものであるかについても、今後の調査と検討を待つ必要があるが、少なくとも詳細な事実関係が明らかとなっていない現時点では、公的機関が設定した10kmの範囲を基準に、最低限の場所的要素の限界となるものと考えざるを得ない。

原子力損害の賠償請求手続き
 請求手続きについては今のところ次のようにアナウンスされている。
  請求される方は、今後、東京電力が開設する被害申出窓口に、「被害申出書」を提出していただくことになりますので、現時点で分かる範囲で被害内容等を把握してください。その後、被害申出書を提出された方に対して、被害額の算定の確認書類を含む「被害明細書」を提出していただくことになりますので、可能な限り、実際に支出したことを証明する領収書等を保管しておいてください。想定される損害内容と賠償請求に際して必要になると見込まれる書類は以下のとおりです。 ※今後、東京電力が開設する窓口において、詳細な情報提供がなされる予定です。お問い合わせ先 研究開発局原子力課 電話番号:03-6734-4160

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