法テラスを被告とする委任契約に基づく費用請求事件の仙台地裁平成26年11月19日判決と控訴理由書 私の解釈は間違っているだろうか
私が原告として法テラスを訴えている委任契約に基づく費用請求事件で、仙台地方裁判所第一民事部は請求を棄却しました。控訴して現在仙台高等裁判所第二民事部に係属中です。判決及び控訴理由を紹介します。私にはどう考えても法テラスや仙台地裁の考えは不合理、不公平だと思うのですが。ちなみに法テラスの代理人は、裁判所から法テラスの業務方法書の証拠提出を求められたところ、「被告に立証責任はないから被告からは提出しない」として提出を拒みました。何と大人げない対応かと呆れましたが、本当に官僚的ですね。
仙台地裁平成26年(ワ)第127号法テラスを被告とする委任契約に基づく費用請求事件判決 平成26年11月19日判決言渡
原 告 坂野 智憲
被 告 日本司法支援センター代 表者理事長 梶谷 剛
主 文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は,原告に対し, 14万7500円を支払え。
第2 事案の概要
本件は, 被援助者Xを当事者とする仙台高等裁判所における損害賠償請求控訴事件の追行を受任範囲とする代理援助契約を被告との間で締結した弁護士である原告が, 訴訟上の救助決定を受けていたXの控訴を棄却するとの判決を受け, 上告審については継続受任しないこととして被告に終結報告書を提出し, 被告において事件終結決定をした後, Xがした上告兼上告受理申立てが棄却及び不受理決定され, 訴訟費用の負担が確定して裁判所から請求を受けるに至ったとして,被告に対し,委任契約に基づき,訴訟費用相当額の費用14万7500円の支払を請求している事案である。
1 争いのない事実等
(1)ア 原告は,弁護士である(争いのない事実)。
イ 被告は, 総合法律支援法に基づき, 総合法律支援に関する事業を迅速かつ適切に行うことを目的として設立された法人である。
(2) X,原告及び被告は,平成23年8月19日,Xが損害賠償を求める訴え(以下「本件援助案件」という。)につきXが原告に委任し, 被告が原告に対してその着手金及び実費を立替払いし,Xが被告に対して同立替金を割賦償還することを内容とし,同契約に規定のない事項については業務方法書によるとの代理援助契約を締結した(乙1,弁論の全趣旨)。 ,
(3) X,原告及び被告は,平成25年2月14日,本件援助案件の控訴審につき, Xが原告に委任し, 被告が原告に対してその着手金及び実費を立替払いし,-が被告に対して同立替金の割賦償還を終結時まで猶予することを内容とし, 同契約に規定のない事項については業務方法書によるとの代理援助契約(以下「本件代理援助契約」という。)を締結した(争いのない事実,甲1)。
(4) 仙台高等裁判所は,平成25年6月.28日,本件援助案件の控訴審において, 第一審において請求を棄却された-の控訴を棄却するとの判決をした(甲2)。
(5) 原告は,被告に対し,平成25年7月3日,Xが上告の意向を持っているが, 原告は受任しないとして, 本件援助案件の控訴審についての終結報告書を提出し,被告は,同月8日,本件援助案件の控訴審について事件終結決定(以下「本件事件終結決定」という。)をした(甲3, 5,弁論の全趣旨)。
(6) 原告は,被告に対し,平成25年9月20日,本件援助案件につきXが上告兼上告受理申立てをしたが, 原告の後任の弁護士が見付からなかったためいずれも却下され, 訴訟費用負担の主文が確定し,Xに対して本件援助案件の第一審及び控訴審の印紙代の請求がされる予定であるとして, 印紙代14万750 0円の追加費用支出を求める申立書を提出したが, 被告は, 同月25日,同年7月8日付けで事件終結しているため追加支出できないとの決定をした(甲4, 5)。
(7) 原告は,被告に対し,平成25年10月7日,前記(6)の決定に対して不服申立てをしたが, 被告は, 原告からの終結報告書に基づいて行われた終結決定において立替金の総額を確定していることから, 終結決定後の追加支出はできないとして,不服申立てを却下するとの決定をした(甲6, 7)。
(8) 被告の業務方法書(甲8)
被告の業務方法書には, 以下の規定がある。
5条 この節において,次の各号に掲げる用語の意義は,当該各号に定めるところによる。
1号 代理援助 次に掲げる援助をいう。
ア 裁判所における民事事件, 家事事件又は行政事件に関する手
続(以下「民事裁判等手続」という。)の準備及び追行(民事裁判等手続に先立つ和解の交渉で特に必要と認められるものを含む。 ) のため代理人に支払うべき報酬及びその代理人が行う事務の処理に必要な実費の立替えをすること。
11条 センターが,援助を行う案件(以下「援助案件」という。)について立て替える費用(以下「立替費用」という。)の種類は,次の各号に掲げるとおりとする。
1号 代理援助又は書類作成援助に係る報酬
2号 代理援助又は書類作成援助に係る実費
3号 保証金
4号 その他附帯援助に要する費用
50条1項 受任者等は,立替費用につき,援助開始決定その他の決定に定める額に不足が生じたときは, 地方事務所長に追加費用の支出の申立てをすることができる。
3項 地方事務所長は, 第1項の申立てを受けた場合において, その申立ての全部又は一部を相当と認めるときは, 地方扶助審査委員の審査に付し, その判断に基づき, 立替基準に従って, 追加費用の支出について決定する。
5項 地方事務所長は,第1項の申立てを受けた場合において,その申立てが次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときは, その申立ての全部又は一部を認めない決定をすることができる。
1号 立替基準に合致しないとき。
2号 その他相当ではないと認めるとき。
56条1項 地方事務所長は,次の各号に掲げる事由があるときは,地方扶助審査委員の審査に付し, その判断に基づき, 援助の終結決定をする。
1号 事件が終結し, 受任者等から終結報告書が提出されたとき。
ただし, 終結決定の対象となる事件に関連する事件が継続している場合で,かつ第58条第2項の規定により関連事件の終結決定又は第83条の27第1項の震災法律援助終結決定を待って報酬金の決定をすることとしたときは, この限りでない。
2号 援助を継続する必要がなくなったとき。 _
3号 受任者等が辞任し又は解任され, 後任の受任者等の選任が困難なとき。
57条1項 地方事務所長は,終結決定において,事件の内容,終結に至つった経緯その他の事情を勘案して次の各号に掲げる事項を決定し, 立替金の総額を確定する。
2号 追加支出の額,支払条件及び支払方法
2 争点
(1) 追加支出請求の主体
(2) 本件事件終結決定の効果
(3) 業務方法書57条の消費者契約法違反の有無
3 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)(追加支出請求の主体)
(原告の主張),
原告は,Xが当事者である本件援助案件の第一審及び控訴審につき, 受任者としての地位を有しており, 被告に対して追加費用の支出を請求すべき義務があるし, 業務方法書50条1項でも受任者等が追加費用支出申立ての主体とされているから, 原告が受任者としての立場に基づき, 追加支出請求をすることができる。
(被告の主張)
業務方法書上, 受任者が追加費用請求の主体とされていることは認めるが,本件援助案件の控訴審については, 平成25年7月8日付けで本件事件終結決定がされているし, 被告が決定した追加費用を受給できる主体は被援助者であるから, 原告は実体的利益の帰属主体ではなく, 原告適格を 有しないから本件訴えは却下又は棄却されるべきである。
(2) 争点(2)(本件事件終結決定の効果)
(被告の主張)
援助開始決定後に不足が生じたときの追加費用の支出決定は, 業務方法書50条3項に基づき,被告が行うこととされているところ,業務方法書57 条1項柱書, 2号は追加支出の終期を終結決定時までに固定しているから,本件においても, 本件終結決定後にされた追加費用支出請求は認められない。
また,追加費用請求権は,援助開始決定や代理援助契約の締結により,当然に追加費用の具体的請求権が発生するものではなく, 本件において, こ.の具体的請求権が発生したとはいえない。
(原告の主張)
本件において, 原告が被告に対して事件終結報告書を提出し, 本件事件終結決定がされた時点では,本件援助案件の控訴審判決中の訴訟費用負担の裁判は確定しておらず, 追加費用支出の申立てをすることは不可能である一方, 上告審での新たな受任者選任のため, 速やかに事件報告書を提出しなければならない状況にあった。受任者等が追加費用の支出の申立てをすることができるとする業務方法書50条1項は, 代理援助契約に基づいて被告が負担する債務を規定したものであり,援助の必要性が継続しているにもかかわらず,明確な合意がない限り, 申込者の同意を得ずに一方的に債務を免れることはできないのにそのような明文の規定は存在しない。
そうすると, 本件事件終結決定は, 援助の必要性が継続しているのに被告が一方的に下したもので無効であり, 追加支出に応じるべき被告の債務を免れる効果はない。そして,業務方法書50条は,原則として追加支出の申立てを受けた場合には支出することとし, 例外的に支出拒否可能要件が認められる場合にのみ支出を拒否することができるとされているのであり, 訴訟費用の追加支出申立てが拒否されることはあり得ないから, 追加費用の具体的請求権が発生したといえる。 .
(3) 争点(3)(業務方法書57条の消費者契約法違反の有無)
(原告の主張)
代理援助契約は, 被援助者と被告の間で締結される第三者のためにする契約であり, 第三者たる受任者が受益の意思表示をすれば, 受任者が被告に対して直接に報酬 ・ 実費を請求する権利が発生する。
業務方法書57条1項柱書, 2号により, 被告の終結決定には追加支出に応じるべき債務を免れさせる効果があるとすると, 第三者のための契約である代理援助契約において, 契約成立後に債務者である被告が一方的に給付を拒否することができる業務方法書57条は, 民法537条の場合に比して消費者である被援助者の利益を一方的に害する条項であり, 信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるから, 消費者契約法10条により無効となる。
そして, 業務方法書が一定の手続を経て作成されているとしても消費者契約法適用の可否とは無関係であるし, 最終的な利益の帰属主体がXであることからすると, 原告が消費者契約法違反を主張することは, 同法の立法目的にも適うものである。 また, 追加費用支出が認められればXはいったん被告に立て替えてもらった上で分割弁済できるのであるから, これが認められないことによりlの利益が害されることとなる。したがって,少なくとも業務方法書57条のうち,追加支出の終期は終結決定時までに固定されているとの部分は無効であるから, 被告は追加費用支出を拒むことはできない。
(被告の主張)
代理援助契約は, 被援助者, 受任弁護士及び被告の間で締結する一本の三面混合契約であり, その一部を対象として契約の有効性を判断することはできないし, 受任者は弁護士という事業者として同契約を締結していたのであるから, 受任弁護士である原告が消費者契約法違反を主張することはできない。そして, 業務方法書は, 最高裁判所及び被告評価委員会の意見を聴いた法務大臣の認可を受けるものであり, 被告が被援助者との圧倒的な情報力及び交渉力の格差を利用して被援助者に不利となる内容を盛り込んで独自に決定するものではない。また, 追加費用の支出は, 被援助者が裁判所に対して負う印紙代を被告が立て替え, その償還を被告から被援助者に求める制度であり, 被援助者の経済的負担は被告の立替えの有無にかかわらず最終的には同じであり, 被告の終結決定により被援助者の利益が一方的に害される状況とはいい難い。したがって, 業務方法書57条の規定に消費者契約法を適用して一部無効とすることはできない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(追加支出請求の主体)
本件は, 原告が被告に対して金銭の給付を求める給付を求める訴えであり,給付の訴えにおいては, 自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格があるというべきであるから, 原告は, 原告適格を有する。
被告は,本件終結決定により,原告は追加費用請求の主体でなくなったと主張するが, 原告は本件終結決定の効力を争っているので, この点については, 後記2で検討する。
2 争点(2)(本件事件終結決定の効果)
前記第2,1(3)(8)及び証拠(甲1)によれば,本件代理援助契約は,本件援助案件の控訴審をその対象とし,その9条, 10条において,事件が終結し, 原告から終結報告書が提出されたときは, 被告は援助の終結決定をし, その際, 追加支出額及び立替金の総額を決定することとされていて, 業務方法書56条,57条にも同趣旨の規定があるところ, このような契約の内容及び業務方法書の規定からすれば, 援助の終結決定により追加支出の額が確定されるのであり, 終結決定後に追加費用支出をすることは予定されていないと解される。
原告は, 援助の必要性が継続しているにもかかわらず, 明文の規定もなく追加費用支出申立てができなくなるとは解されず, 本件事件終結決定は無効であると主張する。 しかし, 上記のとおりの契約及び業務方法書の規定からすれば, 終結決定後に追加費用支出がされることは予定されておらず, そのことも契約内容となっていると解されるし, 本件代理援助契約について, 援助の必要性がある限り, 終結決定がされてもなお被告において追加費用を支出しなくてはならないと解すべき手掛かりとなる契約条項や業務方法書の規定は存在しないから, 原告の主張は採用できない。
したがって, 被告において, 本件事件終結決定後にされた追加費用支出申立てに応じるべき義務はないこととなる。
3 争点(3)(業務方法書57条の消費者契約法違反の有無)
原告は,業務方法書57条が消費者契約法10条に違反すると主張する。この点,仮に本件代理援助契約が,原告の主張するとおりの第三者のためにする契約であると解されるとしても, 被告と被援助者であるXとの間の契約上, 被援助者が追加費用の支出を求めることができるのは, 前記2で説示したところからすると終結決定がされるまでの間であって, 原告の受益の意思表示により発生するのも終結決定がされるまでの間の受任者として原告自ら追加費用支出請求ができるという権利にとどまる。 そうすると, 原告の受益の意思表示により, 原告は援助の必要がある限り終結決定後も追加費用支出請求ができる権利を取得したのに, 業務方法書57条によりその.後に同権利が制限されるという関係にはないから, 業務方法書57条により被告が終結決定後には追加支出に応じるべき債務を負わないという点は,民法537条, 538条に比して消費者の権利を制限するものとはいえず, 業務方法書57条が消費者契約法10条に違反するとはいえない。
4 以上検討のとおり, 業務方法書57条が消費者契約法に違反するとはいえず,本件事件終結決定後に被告が追加費用支出申立てに応じるべき義務はないから, 原告の請求は理由がないことに帰する。 よって, 原告の請求を棄却することとして, 主文のとおり判決する。
仙台地方裁判所第1民事部
裁判官 荒谷 謙
平成26年(ネ)第404号 委任契約に基づく費用請求控訴事件
控訴人 坂野智憲
被控訴人 日本司法支援センター
控 訴 理 由 書
平成27年1月15日
仙台高等裁判所 第2民事部 御中
上記当事者間の頭書事件における控訴人の控訴理由は以下のとおりである。
第1 事件終結決定の効果について
1 原判決
原判決は,代理援助契約書(乙1)9条,10条及び業務方法書(甲8)56条,57条の規定に照らせば,援助の終結決定により追加支出の額が確定されるのであり,終結決定後に追加費用支出をすることは予定されていない旨判示する。業務方法書57条に「追加支出額の確定効」「立替金総額の確定効」があると理解するのであろう。
2 終結決定後の追加費用支出は可能であること
しかし原判決の係る解釈は誤りである。控訴人が主張しているのは、終結決定後に訴訟上の救助の取消決定がなされて初めて納付義務が生じる訴訟費用についての追加費用支出である。終結決定の時点で未だ発生していない費用については、終結決定において追加支出を決定することなど不可能である。そして同50条によれば追加費用は支出するのが原則であるから、もしこの代理援助契約の本質的効果である「代理援助に係る実費の支出」の一部を制限するのであればその旨が明記されなければならないはずである。しかし同57条は、終結決定後に初めて納付義務が生じる費用について特段の定めをしていない。
これをもって原判決のように「終結決定後に追加費用支出をすることは予定されていない」と解釈するのが正しいか、「終結決定後に追加費用支出をすることも許される」と解釈するのが正しいかは、代理援助契約の目的に遡って解釈されるべきである。
業務方法書2条は,「あまねく全国において,法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会の実現を目指して,その業務の迅速,適切かつ効果的な運営を図る」と規定する。被告が実施する代理援助制度は,経済的に困窮する者に対し弁護士費用,実費等の援助を行うことを根幹とするものであるから,代理援助契約の目的とは,経済的に援助を必要とする者に対し,必要な範囲で弁護士費用,実費の立替を行うことに尽きる。そして、経済的に援助を必要とする者に対し実費の立替を行う必要性において「終結決定の時点で未だ発生していない費用」と「終結決定の時点までに既に発生している費用」とで異なるところは全くない。だとすれば、明文で禁止されていない限り「終結決定後に追加費用支出をすることも許される」と解釈するのが正しいといわねばならない。同57条は「終結決定までの間に発生した費用については追加支出額などを決定して、その時点までの立替金の総額を確定する」という消極的な意味にとどまり、「終結決定後に発生した費用についての追加支出を認めない」という積極的な意味を持つ規定ではないのである。
もし原判決のように同57条に「追加支出額の確定効」「立替金総額の確定効」を持たせるとするならば、例えば同56条2号の「援助を継続する必要がなくなったとき」の判断を誤って終結決定をしてしまった場合には、同70条の9の明白な誤記などには当たらないので、是正の術がないことになってしまう。これは明らかに不合理である。本来であれば同63条の3の終結決定を変更する決定に、「終結決定後に費用が発生した場合の変更決定」を明示しておくべきだったのである。しかし業務方法書の規定の不備を被援助者の不利益に帰することは背理であるから、同57条が終結決定後に初めて納付義務が生じる費用について特段の定めをしていない以上、同50条により終結決定後に追加費用支出をすることも許されると解釈すべきものである。
第2 事件終結決定の有効性について
1 そもそも終結決定は無効であること
仮に原判決のように「援助の終結決定により追加支出の額が確定されるのであり,終結決定後に追加費用支出をすることは予定されていない」と解釈するとしても、本件ではそもそも終結決定は無効である。
代理援助契約書9条及び業務方法書56条には,「事件が終結し,受任者等から終結報告書が提出されたとき」に援助の終結決定がなされるとの規定が存在する。原判決は,かかる規定を根拠に,終結報告書の提出をもって援助の終結決定がされるとの認定を行っている。
しかし,「事件が終結し,受任者等から終結報告書が提出されたとき」との規定は,率直に読めば「事件が終結し,かつ,受任者等から終結報告書が提出されたとき」と理解されるべきである。すなわち,終結報告書の提出のみによって終結決定を下すことは許されず,「事件が終結し」ているか否かが審査されなければならない。
この点につき,業務方法書の規定上,事件の終結事由を定めた明文は存在しない。明文が存在しない以上,何をもって事件の終結事由とするかについては,代理援助契約の目的に遡って解釈されるべきである。
業務方法書2条には,「あまねく全国において,法による紛争の解決に必要な情報やサービスの提供が受けられる社会の実現を目指して,その業務の迅速,適切かつ効果的な運営を図る」との規定が存在する。かかる規定は,代理援助契約の目的を抽象的に表現したものである。被告が実施する代理援助制度とは,経済的に困窮する者に対し弁護士費用,実費等の援助を行うことを根幹とするものであるから,代理援助契約の目的を端的に表現すると,金銭的援助を通して法的紛争の適切な解決を実現することとなろう。
上記のように,代理援助契約の目的とは,経済的に援助を必要とする者に対し,必要な範囲で弁護士費用,実費の立替を行うことに尽きる。このような目的からすると,代理援助契約における事件の終結事由とは,被援助者に対する経済的援助の必要性が消滅したことを意味することは明らかである。このように解さなければ,経済的援助の必要性が存続しているにもかかわらず事件の終結が認められ得ることとなり,代理援助契約の目的に反する結果となる。
2 本件終結決定時において援助の必要性は消滅していないこと
これを本件に当てはめると,被控訴人宮城地方事務所が終結決定を下した時点で,訴外Xには援助の必要性が存在しており,本件終結決定は要件を欠いた無効なものである。
既に原審において主張しているところではあるが,訴外渡邊は第1審及び第2審の訴訟費用につき訴訟救助の決定を受けていたところ,いずれも敗訴し,訴訟費用の負担を命じる判決を下された。従って,敗訴判決が確定した時点で訴訟費用の支払義務が発生することは明らかであり,援助の必要性は客観的に存続していた。被控訴人宮城地方事務所は,このような状況を認識したにもかかわらず,援助の必要性の存在を考慮することなく,終結報告書の提出という事実のみに基づき終結決定を下したのである。
3 終結報告書を提出についての被控訴人の運用
もし仮に,被控訴人において,援助の必要性の有無が確定した段階で終結報告書を提出することを可能とする運用を行っていたのであれば,終結報告書の提出をもって事件の終結決定を下すこともあながち不合理とはいえないかもしれない。
しかし,被控訴人は,終結報告書を提出しなければ上級審での新たな受任者を選任しないこととしていたのであり,かかる運用の下では,本件のように,援助の必要性が存続していても終結報告書を提出せざるを得ないのである。
このように,援助の必要性が存続しているにもかかわらず終結報告書を提出することを余儀なくさせる運用を被控訴人が行っているにもかかわらず,終結報告書の提出という事実のみをもって事件の終結決定を下すことは許されない。
4 終結決定を事後的に変更しうる規定の存在
業務方法書63条の3には,終結決定後において終結決定の内容を変更し得る事由が規定されている。終結決定の事後的変更が可能となる具体的な事由は,「終結決定後において,新たに相手方等から金銭等を得たとき」(1号)及び「終結決定後において,その決定前に相手方等から金銭等を得ていたことが発覚したとき」(2号)である。
業務方法書60条には,被援助者が相手方等から金銭等を得ている場合に,相手方等から得た金銭等を立替金の償還に充てなければならないとの規定が存在する。
つまり,業務方法書63条の3は,終結決定後に被援助者が相手方等から金銭等を得た場合に,当該金銭等を立替金の償還に充てることを可能とする規定なのである。これは,援助の必要性が消滅していたことが事後的に判明した場合に,援助の必要性の消滅という事情に則した処理を行うことを可能とするための規定であり,いわば本件事案とは逆の事態を想定したものである。
この規定には,援助の必要性の有無という代理援助契約の本質が反映されている(ただし,被控訴人にとって一方的に有利にであるが)。
以上のことからしても,代理援助契約の解釈上,援助の必要性の有無が決定的な要素となることは明らかである。
5 小括
以上のことから明らかなとおり,本件においては,援助の必要性の有無を考慮した上で終結決定の有効性を判断することが不可欠となる。
それにもかかわらず,原判決は,終結報告書の提出という事実のみをもって本件終結決定が当然に有効となるとの前提のもと,控訴人の請求を棄却している。かような判断は,代理援助契約の本質を看過した不当なものである。
第3 業務方法書57条が消費者契約法に反する点について
1 原判決
原判決は,本件代理援助契約の締結により発生するのは「終結決定がされるまでの間,Xの受任者として原告自ら追加費用支出請求ができる権利にとどまる」とした上で,終結決定後に追加支出に応じるべき債務を負わない点につき,民法の規定に比して消費者の権利を制限するものとはいえない旨判示する。
しかし,以下に述べるとおり,原判決は不当である。
2 代理援助契約により発生する権利
前記第1で既に述べたところではあるが,原判決の根本的な誤りは,本件終結決定の有効性を当然の前提としている点にある。
代理援助契約の目的に照らせば,終結決定を下すにあたり,援助の必要性が消滅していることが不可欠の要件となる。すなわち,代理援助契約を第三者のためにする契約(民法537条,538条)と解した場合,控訴人の被控訴人に対する受益の意思表示により発生するのは,援助の必要性が消滅するまでの間,訴外Xの受任者として控訴人自ら追加費用支出請求ができるという権利である。
原判決がいう「終結決定がされるまでの間,渡邊の受任者として原告自ら追加費用支出請求ができる権利」とは,代理援助契約の目的を看過した技巧的な解釈により導かれたものであり,到底是認できるものではない。
3 業務方法書57条
前記2に照らせば,業務方法書57条は,援助の必要性の有無を確定した上で下された終結決定により,追加費用支出の額が確定する効果を有する規定と解釈されるべきである。このように解せば,業務方法書57条が消費者契約法に反するか否かの検討を行うまでもなく,控訴人の請求の正当性が基礎づけられることとなる。
仮に,業務方法書57条が,終結決定の有効性いかんにかかわらず,終結決定を下したこと自体をもって追加費用支出の額を確定する効果を有するのであれば,援助の必要性が消滅するまでの間,被援助者の受任者として自ら追加費用支出請求ができる権利を制限するものであることは明らかであり,消費者契約法10条に反することとなる。
4 小括
以上のとおり,業務方法書57条をどのように解しても,控訴人の請求の正当性が基礎づけられることとなる。従って,原判決は不当である。 以上
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