法曹養成制度改革推進会議決定(案) やはり絶望的
法曹養成制度改革推進会議決定(案)
第1 法曹有資格者の活動領域の在り方
1 法曹有資格者の活動領域の拡大に関する基本的な考え方
法曹有資格者の活動領域の在り方については、法務省に設置した「法曹有資格者の活動領域の拡大に関する有識者懇談会」並びにその下に日本弁護士連合会との共催により設置された「国・地方自治体・福祉等」、「企業」及び「海外展開」の各分野に関する分科会において、法曹有資格者の活動領域の更なる拡大を図る方策等を検討するとともに試行的な取組を行ってきた。その結果、これまで、各分野において法曹有資格者の専門性を活用する機会は増加してきたところであるが、このような流れを加速させるためには、法曹有資格者の活動領域の拡大に向けた取組を継続することが必要である。
2 具体的方策
法務省は、法曹有資格者の専門性の活用の在り方に関する有益な情報が自治体、福祉機関、企業等の間で共有され、前記各分野における法曹有資格者の活用に向けた動きが定着するよう、関係機関の協力を得て、そのための環境を整備する。
日本弁護士連合会及び各地の弁護士会においては、こうした取組と併せて、前記各分野における法曹有資格者の専門性を活用することの有用性や具体的な実績等を自治体、福祉機関、企業等との間で共有すること並びに関係機関と連携して、前記各分野において活動する弁護士を始めとする法曹有資格者の養成及び確保に向けた取組を推進することが期待される。
最高裁判所においては、司法修習生が前記各分野を法曹有資格者の活躍の場として認識する機会を得ることにも資するという観点から、実務修習(選択型実務修習)の内容の充実を図ることが期待される。
第2 今後の法曹人口の在り方
新たに養成し、輩出される法曹の規模は、司法試験合格者数でいえば、質・量ともに豊かな法曹を養成するために導入された現行の法曹養成制度の下でこれまで直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである。すなわち、引き続き法科大学院を中核とする法曹養成制度の改革を推進するとともに、法曹ないし法曹有資格者の活動領域の拡大や司法アクセスの容易化等に必要な取組を進め、より多くの有為な人材が法曹を志望し、多くの質の高い法曹が、前記司法制度改革の理念に沿って社会の様々な分野で活躍する状況になることを目指すべきである。
なお、新たに養成し、輩出される法曹の規模に関するこの指針は、法曹養成制度が法曹の質を確保しつつ多くの法曹を養成することを目的としていることに鑑み、輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある。
法務省は、文部科学省等関係機関・団体の協力を得ながら、法曹人口の在り方に関する必要なデータ集積を継続して行い、高い質を有し、かつ、国民の法的需要に十分応えることのできる法曹の輩出規模について、引き続き検証を行うこととする。
第3 法科大学院
1 法科大学院改革に関する基本的な考え方
○ 平成27年から平成30年度までの期間を法科大学院集中改革期間と位置付け、法科大学院の抜本的な組織見直し及び教育の質の向上を図ることにより、各法科大学院において修了者のうち相当程度(※)が司法試験に合格できるよう充実した教育が行われることを目指す。
※ 地域配置や夜間開講による教育実績等に留意しつつ、各年度の修了者に係る司法試験の累積合格率が概ね7割以上。
○ 法科大学院生に対する経済的支援の更なる充実や優秀な学生を対象とした在学期間の短縮により、法科大学院課程修了までに要する経済的・時間的負担の縮減を図る。
2 具体的方策
⑴ 法科大学院の組織見直し
○ 平成27年度から、文部科学省及び法務省が実施している公的支援の見直し強化策及び教員派遣見直し方策は、法科大学院の組織見直しの進捗状況を踏まえつつ、平成28年度以降においても継続的に実施する。また、最高裁判所においても教員派遣見直し方策の実施が継続されることが期待される。
○ 文部科学省は、司法試験合格率(目安として平均の50%未満)、定員充足率(目安として50%未満)、入試競争倍率(目安として2倍未満)などの客観的指標を活用して認証評価の厳格化等を図るべく、平成27年3月31日改正に係る「学校教育法第百十条第二項に規定する基準を適用するに際して必要な細目を定める省令」に基づき、認証評価機関における平成27年度中の評価基準改正及び平成28年度からの認証評価における積極的な運用を促進する。
文部科学省は、認証評価結果又はその他の事情から客観的指標に照らして課題があるものと認められる法科大学院に対し、教育の実施状況等を速やかに調査することとし、その結果、法令違反に該当する状況が認められる場合は、直ちに是正を求め、それでもなお改善が図られないときは、学校教育法第15条に基づき、当該法科大学院に対し、改善勧告、変更命令、組織閉鎖命令の各措置を段階的に実施するものとする。また、文部科学省は、前記調査の実効性を確保するため、客観的指標の水準を下回る法科大学院に対して教育状況の報告又は資料の提出を適時に求めることができる体制及び手続を平成27年度中に検討し、速やかに整備する。
○ 文部科学省は、前記取組の状況を適時精査・検討し、その結果、司法試験の合格状況の低迷が著しいなど課題が深刻な状況について何ら改善が見られないにもかかわらず、しかるべき措置が講じられないなど、前記取組の十分な効果を認めることができない場合には、例えば、課題が深刻な法科大学院について客観的指標も活用しつつ適切な措置が講じられるよう、司法試験の合格状況などの教育活動の成果と関連性の高い基準について、専門職大学院設置基準の見直しないし解釈の明確化を平成30年度までの間に検討し、速やかに措置を講じる。
○ 前記の各措置の実施に当たっては、法曹を志す者の誰もが法科大学院で学ぶことができるよう、法科大学院の所在する地域の状況や夜間開講状況、ICT(情報通信技術)を活用した授業の実施状況などの事情を適切に考慮するものとする。
⑵ 教育の質の向上
○ 平成27年度以降、文部科学省は、以下の取組を加速する。
・法科大学院を修了した実務家教員等を積極的に活用した指導の充実を促進する。
・法学未修者に対する法律基本科目の単位数増加など教育課程の抜本的見直し及び学習支援などを促進する。
・その他、我が国におけるあるべき法曹像を踏まえ、海外展開や国、地方自治体、企業などの組織内法務、福祉分野等への対応をはじめ、社会のニーズに応えて様々な分野で活躍できる法曹の養成に有意義と認められる先導的な取組を支援する。
○ 文部科学省は、法科大学院が共通して客観的かつ厳格に進級判定等を行う仕組である共通到達度確認試験(仮称)(以下「確認試験」という。)について、平成30年度を目途に本格実施に移すべく、法科大学院関係者を中核としつつ、法曹三者の理解と協力を得ながら、試行を毎年度行い、その結果を踏まえ、出題内容や難易度等の改善をその都度図るとともに、その試行対象者を法学未修者から法学既修者に順次拡大することとする。
また、文部科学省は、将来的に確認試験の結果に応じて司法試験短答式試験を免除することを想定し、前記試行と並行して、法務省の協力も得ながら確認試験の試行データと受験者の司法試験短答式試験合格状況との相関関係を検証・分析し、その結果を踏まえ、出題内容や難易度等の改善をその都度図ることとする。その状況に応じて、文部科学省及び法務省は、確認試験実施の安定性及び確認試験結果の客観的・社会的信頼性等を踏まえ、確認試験がその結果を国家試験たる司法試験短答式試験の免除と関連させるに足りる実態を有すると認められることを前提に、確認試験の目的、司法試験短答式試験免除に必要とされる合格水準、確認試験の実施主体、実施体制等、必要な制度設計を具体的に検討する。
○ 文部科学省は、確認試験の定着状況に応じて、当該確認試験と法科大学院統一適性試験や法学既修者認定試験の在り方について検討する。
⑶ 経済的・時間的負担の軽減
○ 文部科学省は、経済的負担の軽減に向けて、意欲と能力のある学生が経済状況にかかわらず進学等の機会を得られるよう、平成28年1月からの社会保障・税番号制度(マイナンバー制度)の導入を前提に、平成29年度以降の大学等進学者を対象に、返還月額が卒業後の所得に連動する、より柔軟な所得連動返還型奨学金制度の導入に向けた対応を加速するとともに、総務省と連携して地方公共団体と地元産業界が協力して地元に就職する学生の奨学金返還支援のための基金の造成に対する支援及び優先枠(地方創生枠)を設けて無利子奨学金の貸与を行うなど奨学金制度や、授業料減免制度など、給付型支援を含めた経済的支援の充実を推進する。
○ 文部科学省は、優秀な学生に対して,質の確保を前提として、大学院への早期卒業・飛び入学制度を活用して学部段階で3年間在学した後に法科大学院の2年の既修者コースに進学できる仕組みの確立及び充実を推進する。
○ 文部科学省は、地理的・時間的制約がある地方在住者や社会人等に対するICT(情報通信技術)を活用した法科大学院教育の実施について、平成28年度までの間に実証的な調査研究を行い、その結果を踏まえ、平成30年度を目途に、法科大学院における本格的な普及を促進する。
3 法科大学院集中改革期間の成果の検証等
文部科学省は、前記2記載の平成30年度までの法科大学院集中改革期間の成果については、その期間経過後速やかに法科大学院生の司法試験の累積合格率その他教育活動の成果に関する客観的状況を踏まえて分析・検討し、必要な改革を進める。
第4 司法試験
1 予備試験
予備試験は、経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得のための途を確保するためのものであるところ、出願時の申告によれば、毎年の予備試験の受験者の過半数を占める無職、会社員、公務員等といった者については、法科大学院に進学できない者あるいは法科大学院を経由しない者である可能性が認められ、予備試験が、これらの者に法曹資格取得のための途を確保するという本来の制度趣旨に沿った機能を果たしていると考えられる。他方で、予備試験受験者の半数近くを法科大学院生や大学生が占める上、予備試験合格者の多くが法科大学院在学中の者や大学在学中の者であり、しかも、その人数が予備試験合格者の約8割を占めるまでに年々増加し、法科大学院教育に重大な影響を及ぼしていることが指摘されている。このことから、予備試験制度創設の趣旨と現在の利用状況がかい離している点に鑑み、本来の趣旨を踏まえて予備試験制度の在り方を早急に検討し、その結果に基づき所要の方策を講ずるべきとの指摘がされている。
これらを踏まえ、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念を堅持する観点から、法科大学院が期待されている当初の役割を果たせるようにするため、前記のとおり、平成30年度までに、文部科学省において、法科大学院の改革を集中的に進めるものとする。他方、法務省において、法科大学院を経由することなく予備試験合格の資格で司法試験に合格した者について、試験科目の枠にとらわれない多様な学修を実施する法科大学院教育を経ていないことによる弊害が生じるおそれがあることに鑑み、予備試験の結果の推移等や法科大学院修了との同等性等を引き続き検証するとともに、その結果も踏まえつつ予備試験の試験科目の見直しや運用面の改善なども含め必要な方策を検討し、法科大学院を経由することなく予備試験合格の資格で司法試験に合格した者の法曹としての質の維持に努めるものとする。また、司法試験委員会に対しては、予備試験の実態を踏まえ、予備試験の合格判定に当たり、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念を損ねることがないよう配慮することを期待する。さらに、平成30年度までに行われる法科大学院の集中的改革の進捗状況に合わせて、法務省において、予備試験の本来の趣旨に沿った者の受験を制約することなく、かつ、予備試験が法曹養成制度の理念を阻害することがないよう、必要な制度的措置を講ずることを検討する。
2 司法試験選択科目の廃止
司法試験論文式試験の選択科目の廃止については、司法試験受験者の負担軽減に資するとともに、司法試験においては法律基本科目の基礎的理解力を重視すべきであるという観点から、これを積極的に評価する見解がある一方で、選択科目の廃止は、法律科目に限らない幅広い知識、教養をもつ多様な人材の育成という法曹養成の理念に沿わないといった指摘や法科大学院生の学修意欲を低下させることにつながるという懸念もあることから、法務省において、文部科学省と連携しながら、引き続き、法科大学院での履修状況等を見つつ、選択科目の廃止の是非を検討することとする。
3 司法試験の具体的方式・内容、合格基準・合格者決定の在り方
司法試験の具体的方式・内容、合格基準・合格者決定の在り方に関しては、司法試験法の改正等を踏まえ、試験時間等に一定の変更が加えられたものであるが、今後においても、司法試験委員会において、継続的な検証を可能とする体制を整備することとしたことから、検証を通じ、より一層適切な運用がなされることを期待する。
第5 司法修習
最高裁判所において、第68期司法修習生(平成26年11月修習開始)から導入修習が実施されたのに加え、分野別実務修習のガイドラインの策定・周知及び選択型実務修習における修習プログラムの拡充のための検討がそれぞれ行われたところ、法曹として活動を開始するに当たって必要な能力等を修得させるという司法修習の役割が果たされるよう、こうした施策を着実に実施し、今後も司法修習内容の更なる充実に努めることが期待される。また、司法修習生に対する経済的支援については、必要に応じて、法務省は、最高裁判所等との連携・協力の下、司法修習の実態、司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況、司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ、必要と認められる範囲で司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。
第6 今後の検討について
法務省及び文部科学省は、連絡協議等の環境を整備し、法曹養成制度改革を速やかに、かつ、着実に推進するため、先に掲げた両省が行うべき取組及び関係機関・団体に期待される取組の進捗状況等を適時に把握しつつ、これを踏まえて、両省が連携し、関係機関・団体の必要な協力も得て、両省における前記各取組を進める。
さらに、グローバル化の進展、超高齢社会、個人や企業の社会経済活動の多様化・複雑化等の社会的状況等を踏まえ、新たな課題に対応し、有為な人材が法曹を志望し、質・量ともに豊かな法曹が輩出されるよう、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の充実を図る抜本的な方策を検討し、必要な措置を講じる。
予想通り絶望的な内容だ。「直近でも1,800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1,500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め」、「各法科大学院において修了者のうち相当程度(※)が司法試験に合格できる」「※各年度の修了者に係る司法試験の累積合格率が概ね7割以上」とされている。
しかし平成27年の法科大学院受験者数は9300人、合格者数は5000人、入学者数は2200人、競争倍率1.87である。平成21年はそれぞれ2万5800人、9200人、4800人、2.8倍だ。過去の推移を見る限り、今後も受験者数、入学者数ともに確実に減少して、数年先には間違いなく入学者数は1500人を切る。それなのに1500人という数値目標を立てたのでは、累積合格率7割どころか10割になってしまう。競争倍率もどんどん低下して限りなく1倍に近づく。これが何を意味するかといえば、ほとんど競争性のない受ければ誰でも合格できるような法科大学院に入学しさえすれば司法試験に合格できるということだ。正に法曹資格の自殺としか言いようがない。
かろうじて「法曹の規模に関するこの指針は、法曹養成制度が法曹の質を確保しつつ多くの法曹を養成することを目的としていることに鑑み、輩出される法曹の質の確保を考慮せずに達成されるべきものでないことに留意する必要がある」とされているが、いったん数値目標が決められればそれを見直すことは至難の業だ。
「法科大学院を経由することなく予備試験合格の資格で司法試験に合格した者について、試験科目の枠にとらわれない多様な学修を実施する法科大学院教育を経ていないことによる弊害が生じるおそれがあることに鑑み」というが、噴飯物だ。そんな弊害など聞いたことがない。もしそれが事実なら大手法律事務所がこぞって予備試験経由合格者を優遇するはずもない。
「司法試験委員会に対しては、予備試験の実態を踏まえ、予備試験の合格判定に当たり当たり、法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念を損ねることがないよう配慮することを期待する」という。これは分かりやすく言えば、予備試験経由での受験者が増えると法科大学院修了者の司法試験合格が相対的に難しくなるので、たとえ予備試験で法科大学院修了者と同等のレベルにあると判定される成績をとったとしても、法科大学院に配慮して不合格にして欲しいと求めていることになる。よくぞここまで露骨に恥知らずなことが言えるものだ。「法科大学院を中核とするプロセスとしての法曹養成制度の理念」というのは、本来予備試験に合格させるべき者を不合格にしてまで守らなければならないものなのか。
この法曹養成制度改革推進会議決定が目指している法曹とは、極論すれば、約6年間(法科大学院3年、受験期間2年、司法修習1年)生活費も学費も親に出してもらえて、かつ就職にもある程度目処のつけられる者(典型的なのは裕福な弁護士の師弟)か、経済的に立ち行くかどうかも分からない資格のために6年間の生活費と学費を借金するおよそ経済観念のない者ということになろう。
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