アスベストの件で、欠陥住宅東北ネット(代表・斉藤拓生弁護士)が4月7日に、津波被害のがれきが残存する4地点で測定を行い、採取した検体をアメリカに送り、分析したところ、1地点(塩釜)では2本が、3地点(名取、仙台港、多賀城)では各0.5本が、それぞれ検出されました(念のため、がれきのない仙台市内でも計測してみたところ0本でした)。この数値は、大気汚染防止法の基準である1リットルあたり10本のアスベストよりは下回りますが、未だがれきや被災建物の撤去作業がなされていない現場での測定であること、被災した建物の多くはアスベスト建材が多用されていた時期に建てられた建物であることから、実際に、撤去作業が始まれば、かなりの本数のアスベストが大気中に浮遊することになりましょう。
私たちは、この結果を踏まえ、昨日、宮城県と仙台市に、継続測定、作業員・周辺住民への防じんマスク着用の周知徹底、アスベスト含有の廃棄建材のリサイクルの回避等、添付の申し入れをしましたが、宮城県は「市町村の事務なので・・」といい、仙台市は「がれき撤去の仮置き場で測定するが、継続測定や電子顕微鏡での分析はしない。業者らの監視も予定していない」ということでした。なお、環境省、防衛省には添付の書面を郵送しました。
2011年(平成23年)4月21日
環境大臣・内閣府特命担当大臣
松 本 龍 殿
防衛大臣
北 沢 俊 美 殿
宮城県知事
村 井 嘉 浩 殿
仙台市市長
奥 山 恵美子 殿
欠陥住宅東北ネットワーク
代 表 齋 藤 拓 生
がれき撤去作業におけるアスベスト対策についての要請書
第1 要請の趣旨
1 建物からのアスベスト飛散の実態を把握するために,空気中アスベスト濃度調査を被災地全体においてすみやかに実施すること
2 作業を開始する前に予め建築物等に十分散水するなど,がれき撤去作業に伴ってアスベストが飛散しないよう万全の措置を講ずること
3 がれき撤去作業に従事者する自営隊員,消防隊員,その他労働者に対し,がれきに潜むアスベスト危険性を周知し,作業に従事する者がアスベストを吸い込まないよう呼吸用保護具(防じんマスク又は電動ファン付き呼吸用保護具)を配布するなど万全の措置を講ずること
4 がれき撤去作業が実際される地域の周辺住民がアスベストを吸い込まないよう簡易防じんマスク(DS-2(N95)以上)を配布するなど万全の措置を講
ずること
5 アスベストの含有するおそれのある建設廃材その他がれきをリサイクルに回さないこと
第2 要請の理由
1 「死の粉じん」=アスベストについて
耐熱性,断熱性,耐火性,防音性,耐摩擦性,耐薬品性,絶縁性,耐腐食性などの優れた物理的性質と,安価であるという経済的性質とが相まって,アスベストは広汎に使用されてきた。
アスベストの超微細な繊維(髪の毛の5000分の1の太さ)が大気中に飛散することで,人間はそれらを吸い込む。それが肺に突き刺さることにより,治癒困難な深刻な病気を引き起こす。その主なものとして,石綿肺(アスベスト高濃度ばく露によって発生するじん肺の一種で,呼吸機能が低下し,心臓の障害,肺がんなども起こる),石綿肺がん(アスベストを原因とする肺がん),中皮腫(肺や心臓を包む胸膜などの中皮という膜にできるがんの一種)が挙げられる。
それゆえ,政府は,1960年には,「じん肺を法」を制定して,アスベストを初めて人体にとって有害な物質として認定した。1971年には,特定化学物質等障害予防規則を制定し,屋内作業場での石綿粉じん濃度の環境測定の実施の義務付けなどが行われた。特定化学物質予防規則は1975年に改正され,アスベストの発がん性を明確にした対策が強化された。また,1975年には,原則として吹き付けアスベストの使用を禁止した。さらに,1995年には,青石綿,茶石綿含有製品の使用を禁止し,1%以上の石綿を含有する建材を規制対象とした。
2 建設・震災アスベスト問題―阪神・淡路大震災の教訓
アスベスト含有建材は,1980年頃までは,一般家庭を含めあらゆるところに大量に使われてきた。
それゆえ,大地震による建築物の倒壊とその解体・撤去作業によるアスベスト被害も建設作業労働者や住民などにとって大きなリスクとなる。実際,阪神・淡路大震災で倒壊した建築物の解体作業に携わった労働者2名の方が,すでに中皮腫にかかり,亡くなったケースも出ている。
環境省は,2007年8月になって,阪神・淡路大震災で事前の準備がなかたことや解体時の飛散防止が完全でなかった教訓から,「災害時における石綿飛散防止に係わる取り扱いマニュアル」を発表した。
上記マニュアルでは,平常時の準備として,専門家の事前の確保と解体した廃棄物の一時保管場所の確保,処理についての他の団体との連絡を定めるとともに,震災発生時には,震災発生後24時間程度の初動対応期は人命救助に専念中なので,72時間を経た生活の保護(食糧支援など)が終わることから倒壊箇所のアスベストの応急危険の判定をはじめ,インフラの回復する一週間前後で応急措置を取り,解体を始める,としている。
厚生労働省も,去る3月28日,建設8団体に対し,① 労働者が石綿粉じんを吸い込まないようにするため,呼吸用保護具(防じんマスク又は電動ファン付き呼吸用保護具)を使用すること,②石綿粉じんを飛散させないために,作業を開始する前に予め建築物等に散水,薬液を使用することにより,湿潤な状態とすること,③ 関係者以外の者が石綿粉じんにばく露しないように,被災者等も含め,関係者以外の者の立入立ち入りを禁止すること等アスベストばく露防止の徹底を求めている。
3 空気中アスベスト濃度調査と万全の防じん対策の必要性
欠陥住宅東北ネットが去る4月7日,EFA・LABORATORIESに依頼し,今後,大量のがれき撤去作業が行われることになる閖上地区,仙台新港地区,多賀城地区,塩釜地区の4地点で大気測定を行ったところ,いずれの地点からも,相当量のアスベストが検出された。極めて憂慮すべき事態である。
宮城県と仙台市は,今回の東日本大震災によって発生したがれき撤去作業に着手するにあっても,作業従事者及び周辺住民のアスベストばく露の可能性・危険性を把握するために,上記環境省のマニュアルを遵守して,すみやかに空気中アベスト濃度調査を実施すべきである。
そのうえで,宮城県と仙台市は,①作業を開始する前に予め建築物等に十分散水するなど,がれき撤去作業に伴ってアスベストが飛散しないようする,②がれき撤去作業に従事者する自営隊員,消防隊員,その他労働者に対し,がれきに潜むアスベスト危険性を周知し,作業に従事する者がアスベストを吸い込まないよう呼吸用保護具(防じんマスク又は電動ファン付き呼吸用保護具)を配布する,③がれき撤去作業が実際される地域の周辺住民がアスベストを吸い込まないよう簡易防じんマスク(DS-2(N95)以上)を配布するなど,万全の防じん対策を講ずるべきである。
4 ノン・アスベスト社会の実現に向けて
「死の粉じん」=アスベストのない社会を実現するためには,アスベストの含有するおそれのある建設廃材その他がれきをリサイクルに回さないことが必要不可欠となる。宮城県と仙台市は,その点についても,十分留意すべきである。
5 よって,要請の趣旨記載のとおり要請する次第である。
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