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カテゴリー「交通事故」の2件の記事

2013年5月16日 (木)

交通事故紛争処理センターでは一部請求についての和解あっせんはしないそうだ

  財団法人交通事故紛争処理センターという機関がある。全ての都道府県にあるわけではなく高裁所在地にある。仙台支部では仙台弁護士会が推薦する会員が相談員及び審査員になるのが通例だ。私も過去に6年間相談員を務めた経験がある。私の場合は後遺症の等級を争うといった困難な事件が多いのであまり交通事故紛争処理センターは利用しないのだが、最近和解あっせんを申し込んだケースがある。
  交通事故の治療費については、医療機関が直接保険会社に請求し、保険会社は直接医療機関に支払うのが通常だ。示談前の仮払いというものだ。ところで交通事故の示談交渉では、保険会社は、被害者から、保険会社が医療機関から診療情報提供を受けることについての同意書を取得する。医師は守秘義務があるので保険会社は被害者の同意がなければ診療情報の提供を受けることができないからだ。診療情報の提供がないと保険会社は後遺障害等級の事前認定の資料も入手できないことになるので、同意書をとる必要性はある。しかし保険会社の中にはいかにも誘導的な質問項目による医療照会を行って、後遺障害の認定に不利な材料を揃えようとするところもある。だから私の場合は同意書は出さないし、既に受任前に依頼者が出している場合は撤回する。弁護士になりたての頃研修でそう教わったのでみんなそうしているものだと思っていた(実際はそうでもないらしい)。
  今回は最初から私が受任したんで保険会社に同意書は出せないと伝えた。すると保険会社は、「だったら治療費の仮払いはできない」と言ってきた。必要な診療情報はこちらで病院から入手して保険会社に提出すると言っても、「同意書を出さない被害者には治療費の仮払いはしないのが会社の方針」の一点張りで埒があかない。病院に事情を話したところ、後で確実にもらえるものなので治療費の支払いはしばらく猶予してもらえることになった。
  症状が固定し治療も終了したので保険会社に治療費を支払うよう請求したらまた「同意書を出さない被害者には治療費の支払はできない」と言われた。治療費の金額は確定しており、過失相殺も問題にならない事案なので、保険会社が支払を拒む理由はない。治療内容を確認するのに必要なレセプトも提出したが保険会社の回答は変わらなかった。嫌がらせ以外の何ものでもない。 この案件は後遺障害等級認定も必要な事案でそれについてはまだ結論が出ていないのだが、だからといって治療費についての一部請求ができない理由はない。
  一部請求で提訴しようと思ったが、交通事故情報センターの和解あっせんの方が無料だし早いだろうと思って申込をした。保険会社は、センターの和解あっせんの席でも同じことを繰り返すだけで支払に応じようとしない。仕方がないので審査の申立をするために、相談担当者にあっせん案を提示した上で和解あっせんを終了するようにいった。するとびっくり、相談担当者は「センターでは一部請求についての示談あっせんはしない運用だから和解あっせん案は出せない。和解あっせんを停止する。」と言ってきた。審査の申し立ては和解あっせん終了が要件なので、終了でなく停止されると審査の申し立てもできない。
  たしかにセンターの利用規定には、「相談担当者は、和解あっ旋を開始した後に、次の停止事由があることが判明したときは、和解あっ旋を停止することができます。① 申立人が治療中である場合、② 申立人申請にかかる後遺障害等級認定手続が進行中である場合、③ 申立人による後遺障害等級認定に対する異議申立手続が進行中である場合、④ 後遺障害等級認定について、申立人による自賠責保険・共済紛争処理機構に対する調停(紛争処理)申立手続が進行中である場合、⑤ 申立人が②~④の申立をする旨の意向を相談担当者へ申し出た場合、⑥ その他和解あっ旋を進めることが困難であると認められる場合」と書いてある。しかし停止事由から明らかなようにこれらは損害額の確定ができない場合だ。今回私が和解あっせんを求めているのは損害額が確定している治療費部分のみである。裁判所は一部請求だって当然に審理判決する。示談交渉でも損害の一部についてのみ示談することは可能だし実際行っている。センターの利用規定を見ても一部請求は取り扱わないという規定はない。
  実際過去に私が相談担当者だった時は後遺症による損害以外の部分について和解あっせん案を出して和解を成立させたことがある。後遺障害についてはセンターも事前認定の結果に拘束されるので全体の解決はできない。しかしだからといって被害回復が全くなされないというのは不当である。後遺障害については裁判で決着をつけることを前提に、それ以外の損害について和解を成立させる必要性も合理性もあったからだ。そのような和解あっせんが許されないなどという話しは当時聞いたことがなかった。いつからそんな運用に変わったのだろう。
  今回の保険会社の治療費支払い拒否は同意書を提出しなかったことに対する嫌がらせであることは疑いない。それが分かっていながら保険会社の違法な対応を許容するセンターの姿勢は理解しがたい。被害者は、現に病院から保険会社が支払わないなら自分で払って欲しいと多額の治療費を請求されて困っている。納得できないので、「金額が確定している一部請求についてセンターが取り扱わない理由はない。治療費部分について和解あっせん停止事由もないのに停止したのは手続きに違反しており和解あっせん終了とみなされる」との理由で審査の申し立てを行った。するとセンターは審査申立はできませんという文書と共に審査申立書をそのまま返送してきた。なんと大人げない対応かとあきれてしまうが、これ以上馬鹿を相手にしても仕方がないので提訴した。もちろん訴状は受理され現在審理中である。
  6年間も相談担当をしたのでセンターには愛着もあるし信頼もしていたのでとても残念な対応だ。法律扶助協会が日本司法支援センターになって法律扶助業務は官僚化したが(独立行政法人になったのだから当たり前か)、どんな組織も官僚化は進むものらしい。
 

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2010年7月19日 (月)

医療過誤と交通事故で二重請求した弁護士が懲戒処分

3月18日 読売新聞
  川越市内で2004年に起きた交通事故の損害賠償請求を巡り、医療過誤と事故の賠償金を二重に請求し、実際の損害以上の額を受け取ったとして、担当弁護士が所属する東京弁護士会から業務停止6か月の懲戒処分を受けていたことが17日、分かった。弁護士は病院側から示談金が支払われたことを伏せたまま、加害者側からも賠償金を受け取っており、同弁護士会は「詐欺と訴えられてもおかしくないケース」としている処分を受けたのは、東京都内の弁護士事務所に勤める中西義徳弁護士(58)。処分は12日付。同弁護士会などによると、事故は04年1月5日、川越市内の市道で発生。乗用車同士が衝突し、被害者の男性(当時60歳)が搬送先の埼玉医科大学総合医療センターで死亡した。
 遺族から弁護を依頼された中西弁護士は同年6月、「医療過誤により死亡に至った」として病院側に約1億500万円の損害賠償を請求。協議の結果、病院側が「解決金」として6600万円を支払うことで示談が成立した。遺族側は06年12月、加害男性に対しても約1億100万円の損害賠償を求めて提訴。業務上過失致死罪で加害男性の実刑判決が確定した後、9000万円の支払いで和解した。中西弁護士は訴状に解決金のことを明記せず、裁判でも伏せていた。しかし、加害男性も事故で重傷を負って同じ病院に搬送されていたため、医師が二重請求に気付き、同弁護士会に懲戒請求を申し立てた。
  同弁護士会綱紀委員会は昨年7月、「遺族側が受け取った金額は、発生した損害以上の額」と指摘。その上で「解決金は医療過誤の損害賠償金と言える。裁判で解決金に言及しなかったのは極めて問題」として、懲戒委員会での審査を求める決定をしていた。処分について、同弁護士会の黒岩哲彦副会長は「詐欺と訴えられてもおかしくないケース。極めて重い処分」としている。中西弁護士は、同弁護士会に対し、「病院側から受領したのは解決金名目の慰謝料で損害は含まれていない。裁判では病院側との示談は問題とされておらず、言及しなかった」などと説明したという。読売新聞の取材に対しては「自分の考えは弁護士会に伝えてある。処分は不服であり、審査請求する予定」と話している。懲戒請求を申し立てた医師は「病院の医療過誤は公にされないことが多い。弁護士が悪用すれば、このような二重請求は、ほかでも起こりうるのではないか」と指摘している。

  医療過誤と交通事故が競合した場合には共同不法行為となり、被害者は病院と交通事故の加害者のいずれに対しても損害額全額について損害賠償請求ができる。しかしもちろん二重取りはできない。仮に中西弁護士が1億5500万円が妥当な損害額だと考えて訴状に損害額1億5500万円と記載した上で、内金請求として9000万円を請求したのなら問題ない。しかし本件では病院に対して1億500万円、加害男性に対しては1億100万円を請求しているとされているので中西弁護士はその程度の金額が妥当な損害額と判断したのだろう。にもかかわらず合計1億5500万円を受領したのだから二重請求、二重受領だ。この場合裁判上の和解は錯誤により無効となり、加害男性は少なくとも6600万円は不当利得として返還請求できることになる。
  懲戒請求を申し立てた医師は、中西弁護士を詐欺罪で刑事告発しているようだが詐欺罪が成立する可能性は高いだろう。同弁護士会の黒岩哲彦副会長は「詐欺と訴えられてもおかしくないケース。極めて重い処分」と述べているようだが、本当に極めて重い処分だろうか?もし詐欺罪が成立すると考えているなら金額の大きさから考えて業務停止6ヶ月はむしろ軽いのではないか。
  懲戒請求した医師は「弁護士会の懲戒処分制度は医療界が手本とすべきものではないという印象を強く持ちました。透明性の観点からは懲戒請求者である私には弁護士会の委員会においていかなる議論が交わされたのか全く分からない不透明なものにしか見えませんでした。また迅速性の観点からも適正とは言えな いでしょう。さらには調査の範囲に関しても非常に限定的で、弁護士会の綱紀委員会、懲戒委員会ともA弁護士しか委員会に呼んで話を聞いておりません。最大の問題点は、再発防止に関しては何の議論もされていない点です。そもそも、弁護士会には組織として再発防止対策を考えるという精神そのものが欠如しているのではな いでしょうか。懲戒請求書の中で私が弁護士会に指摘したことは、交通事故と医療事故が同一事例で起きた時、各々の損害賠償請求を別々に独立して行うと、今回の場合と同様に 、損害賠償金の二重請求が論理的に可能であるという問題提起でした。そして、このような事例は、これまでにも実際に起きているのではないか、という疑いが強くあるのです。」と述べているようです。
  交通事故と医療事故が競合した場合に各々の損害賠償請求を独立して行えるというのは被害者保護が理由であって、そのこと自体は合理的だ。本来は病院が解決金を支払った後に病院の代理人の弁護士が加害男性(実質的には損保)に求償しておくようアドバイスすべきだったのだろう。ただこの医師が言う弁護士会の懲戒制度の「最大の問題点は、再発防止に関しては何の議論もされていない点です。」との指摘はそのとおりだと思う。もちろん懲戒制度自体は再発防止策を検討するという手続きではないが、せっかく調査するのであるから弁護過誤のような場合には別途再発防止策を提言するような手続きが考えられてよいように思う。この医師が「言っていることとやっていることが違う」医療機関に対して医療事故の再発防止を強く求めている以上、弁護士会も弁護過誤防止対策や非行弁護士対策をきちんと行うべきだという主張は正論だ。
  かつては懲戒事例が掲載されることすら例外的だったのに、自由と正義の今月号には9件の懲戒事例が公告された。仙台弁護士会の会員も懲戒されている。その多くは当該弁護士のパーソナリティーの問題と考えられるものだが、顧客の預かり金に手を付けるなど経済的窮乏を動機とするものも見受けられる。今後も弁護士人口激増は続くので懲戒件数は増加の一途を辿るだろう。司法改革の唯一の成果は「非行弁護士の横行と弁護士に対する信頼喪失だった」と言われる日も遠くないような気がする。 

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